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被害者支援の充実を願って

 

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警視総監 野田健(のだたけし)

 

平素は、警察業務の各般にわたり格別のご理解とご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、警察が犯罪被害者への支援活動に組織として取り組みはじめた平成八年以来、五年の歳月が過ぎようとしています。

警視庁ではこの間、犯罪被害者対策室を設けて、警察職員の意識改革はもとより、事件直後における被害者への付き添い支援や被疑者の検挙等の情報提供、相談窓口の充実など、被害者の要望に対応すべく、警察として為すべき施策を全庁あげて展開しておりますが、忙しさにかまけて、いまだに不十分な取扱いをしている場面もあるやに聞いており、胸の痛むことがあります。そうした中、時折、親身になって被害者に接している警察官への礼状も私のもとに届けられます。

「○○さんの励ましにはとても感謝しております。」「優しく頼りになる刑事さんに担当していただき、本当に心強く嬉しく思っています。など、その文面からは、逆境から立ち直ろうとする健気な被害者と、被害者に寄り添って歩く現場の警察官の姿が浮かんできます。

警察組織における被害者支援活動が、着実に根づきつつある結果が感謝の手紙となってあらわれているものと、まことに心温まる思いがします。

被害にあうことなど夢にも思わなかった人が、ある日突然、犯罪に巻き込まれた途端に世界が一変して、当然に守ってもらえると信じていた地域社会からつき離されてしまった思いに、愕然と立ちつくしてしまうことがしばしばあると思います。

「こうした孤立感は、犯罪の被害にあった方々が共通に抱く感情であり、特別なことではない。誰でも被害者になればそういう心理状態になるものだ。」と言われています。

それが被害者心理に対する正しい理解だとしても、地域社会の側が、被害者を孤立させたまま放置するようなことがあってはならないと思います。

ついひと昔前まで、隣人同士が助けあって生きる人情味あふれた慣習が大切にされてきたように、元来、日本人はやさしい心根を持ち、他人を思いやる民族性を有しています。

被害者の身になってその痛みや苦しみを理解し、ともに涙する熱い心を、地域社会を構成する一人一人が持っているのですから、それを被害者支援のための制度や組織として形にし、生かしていくことが大切です。

立ち遅れていた我が国の被害者支援活動が、「声を上げる勇気を持った被害者」をはじめとする多くの方々の力によって進展し、今日、被害者のための制度整備をはじめ、警察ばかりでなく社会各層における巨大なうねりとなって、本来進むべき方向に向かおうとしていることは、喜ばしい限りです。

今後は、民間支援組織の活動を皆で支え、被害者が当たり前のこととして、支援を受けられるよう努力していく必要があると思います。

このような意味からも社団法人被害者支援都民センターが、民間における被害者支援の核となるべく活動を開始されたことは誠に時宜を得たものであり、本センターの役員や会員をはじめとして、その活動にご理解を示され、ご協力なされている皆様の慧眼に、心から敬意を表する次第であります。

また本センターは、設立されたことに意義があるのではなく、事業目的の遂行においてこそ真価が問われるのであって、その目指すところは欧米なみ、さらにはそれにも増して充実した被害者支援であります。

歩み始めたばかりの本センターにとって、その道のりは遠く、峰は高きにありますが「被害にあって悲しみの底に沈んでいる方々を支える。」という崇高な理念の下に活動される本センターを、心から応援していきたいと考えております。

本センターの一層のご発展を切に願ってやみません。

 

 

 

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