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3.3 先進事例にみる砂浜機能の調査手法

前3.2項では、砂浜海岸が持つ環境保全機能について、生物との関連性が深い生物生産機能、水質浄化機能の基本的な考え方と研究の現状についてとりまとめた。その結果、

◇外海性海浜部の汀線付近における生物相の調査事例が少ないこと、

◇反面、幼稚仔魚などの生息場として重要であり、潮間帯から砕波帯までの極浅海部には場の環境に適応した生物群が生息すること

◇浄化機能に関する調査研究例は内湾域が中心であること

◇細菌による浄化機能に関しては一定の成果が得られていること

◇砂浜の水質浄化機能に関する期待は水質悪化が問題となる内湾域で大きいこと

などが整理でき、外海性砂浜に第一に求められる機能としては生物生産機能であるものと想定され、この潮間帯付近の生物相については、研究事例が少なく、先ずは生物相の実態を明らかにする必要があると思われた。

ここでは、これらの調査研究事例のうち、砂浜(内湾の干潟も含む)における生物相に関する調査研究事例を対象に調査の概要と課題を表3.15に整理した。

(1) 調査項目について

調査項目は、「底質」、「生物」が対象となっている。

「底質」では粒度組成の分析が必ず実施されている他、内湾域の調査では有機物量の指標となる強熱減量(IL)、化学的酸素要求量(COD)の分析が行われている例が多い。

「生物」では、出現種、種類別の出現個体数、種類別湿重量に関する分析が行われている。底生生物の調査手法としては、グラブ式採泥器あるいは枠取り調査1による採集が行われている。魚類幼稚仔の調査手法は、現在広く標準化されたものがないが、事例では海域で一般に行われている円錐形のネット(プランクトンネットあるいは稚魚ネット)により海面付近を水平に曳網する方法と海底付近をソリネット(ソリ状の脚がついたフレームにネットを取り付けたもの)で曳網する方法がとられている。また、汀線付近の極浅海部は水深が浅く波が荒いため、船舶を用いた調査が困難であることから、特殊な押し網などを用いて、人が汀線沿いにあるいて採集するか、小さな地びき網を使うことが紹介されている2

(2) 調査上の課題

調査上の課題について言及している資料では、海浜の地理的位置が異なることにより地先の水質条件や流入する河川の影響が大きいため、調査結果のうちどこまでが砂浜の特性を表現しているか不明とする例や、「渚(海岸の範囲)」をどこまでとするかが不明確であるため、調査結果の位置づけを明確に出来ない、などの課題が挙げられている。

また、調査手法自体については、底生生物を対象とした場合、採集面積や採集深さが不統一であり、砂浜部の潮間帯では生物の分布密度が低い場合も考えられることから(例えば3.2(1)2)項における阪南海岸の調査事例)、十分に生物量の実態が把握できているかの点に課題があるように思われる。

 

1 枠取り調査:海底に方形枠などを置き、その中の生物を底泥とともに採取する方法で、陸域や潮間帯における生物調査を実施する一般的な手法。

2 海洋調査技術マニュアル−海洋生物編−、第2版、社団法人海洋調査協会、1998年

 

 

 

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