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この点は、近代国家における法制度の下では、通常は海軍力の行使として捉えられていた海上警察について、わが国の国法上、海上保安行政というカテゴリーに置き換えたことから生じる問題点でもある。国内法による受け皿がないまま、海上保安官が海賊事例に正面から対応せざるを得ないような場合に、海上保安庁法17条や18条を根拠に海上保安官が一定の措置をとることについては、以上の論理を踏まえると、否定的な結論になる。これをクリアするためには、海上保安庁法5条28号を援用して公海海上警察権の行使を海上保安庁の所掌事務に読み込む、といた説明が必要になる。しかし、これについても、法2条1項への読み込みという部分に疑義がなくはない。

ここで、海上保安庁法に定める「法令の海上における励行」の解釈論上の意義が改めて問題になる。最もイノセントな議論としては、そもそも、行政権は「法令の執行」を行うわけで、「法令の海上における励行」という任務は、国際法上の管轄権の執行を含む包括的な権限委任を示すもの、という読み方もあろう。この場合は、海上保安庁には、海上警察について、すでに包括的な授権がなされているわけであるから、その上で国内法・国際法が規制規範として規律すると説明することができる。しかし、この部分に一定の限度で授権規範性を読み込むとしても、それだけで海上警察権の全面的な包括的授権を導くことは到底無理であろう(海上保安庁法自体が、「法令の励行」と並行して様々な任務・所掌事務を並べている)。しかし、このような規定の仕方は、それ自体が、海上保安行政の特質(例えば、通常の陸上の警察権との対比)を示しているとも考えられる。筆者としては、海上警察・海上保安行政の特質を踏まえつつ、「法令の海上における励行」による授権の限度を、国際法・国内法の双方を眺めながら解釈論的に見極めて行く、という作業を蓄積して行く以外ない、と考える次第である。

山本草二教授の著書『国際刑事法』(前出)326頁では、麻薬不法取引の規制について、次のように述べられる。「米国の積極的な態度にくらべると、わが国では、麻薬等の不法取引に従事する外国船舶に対して公海上で強制措置をとることには、限界がある。

 

 

 

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