同様に、国際法上の法規範が、国内行政機関の行動にとって単に規制規範となるだけではなく、授権規範ないし根拠規範となる部分があり得るのではないか?という問題がある。
国際法によって与えられた沿岸国の権能が、国内法上の根拠規範となって行政活動を授権するような場合があり得るのか、ということで問題を立てた場合に、海軍とは異なる国内法上の行政機関である海上保安庁による法執行作用について、これを肯定することは相当に難しいと考えるのが常識的であろう。そこで、例えば、海上保安官による措置が、厳密には国内法令上の根拠規範について疑義があるような場合、「緊急の措置」という一般原則を応用してその違法性を否定することを想定して、国際法が右の法的考量を行う際の考慮要素のひとつになるのか、といった問題が立てられ得る。しかし、本研究会における国際法研究者の見解によれば、このような枠組みを設定しても、国際法に国内行政法上の受験規範・根拠規範としての性格を認めることは困難ということであった。
そうであるならば、たとえば海賊への対応のように、国際法上の公海海上警察権をわが国の海上警察権の担い手が行使する場合に、立法論によらない解釈論による対応はそこで行き詰まってしまう。したがって、海上保安庁法を要とするわが国の海上保安法制について、国際法の展開を正しく踏まえ、わが国の海洋国家としてのあるべき姿に係る政策判断の下に、法整備を進めることが、最終的な課題となるし、法理論上は右の結論を踏み越えることは困難と言わざるを得ないことになる。しかし、次のような疑問が残らなくはない。
例えば、今回の事例に見られるように、旗国の同意の下に一定の行政的措置をとるような任務は、どの行政機関がどのような法的構造の下に行い、その過程で生じる裁量判断については、例えば、外務大臣なのか、海上保安官なのか、といった間題があって、そのような行政作用の根拠規範の一定部分が、事実上国際法によってもたらされているのではないか?また、国際協力を行うという枠組みで海上保安庁が一定の行動を起こす場合に、国際法が、厳密な意味での規制規範の範囲を超えて、一定の根拠規範となり得るのではないか?これらは、国際法上、明確に否定されるのかも知れない。