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国内法令上の授権が未整備のために、これらの外国容疑船舶の臨検捜索、拿捕または被疑外国人の逮捕などの強制措置をあえて行えば、権限逸脱のそしりを受けかねず、公判が維持できない場合も少なくない」、と。行政法的に見ると、右の記述の中の、「権限逸脱のそしり」が、法的にどのようなものとなるのかが、問題になる。立法論として対応が必要である、という問題は別にして、現行法を前提に、右の「権限逸脱」というリスクを犯さざるを得ないような状況に海上保安官が現実に立ち至った場合、あるいは、事後的に「権限逸脱」と判定されるような措置がなされてしまったような場合、厳密な法論理上はともかくとして、国際法上の規範が、国内法上の技術的な解釈操作を行う際に、事実上の考慮要因とされるということについて、それが全く許されないのか、検討を深める必要があるものと筆者は考えている。(6)

 

〔注〕

(1) 橋本博之「海洋管理の法理」金子宏先生古稀祝賀『公法学の法と政策・下巻』(2000年)671頁以下。

(2) 村上暦造「海上保安官権限論序説」大国仁先生退官記念『海上犯罪の理論と実務』(1993年)257頁以下。

(3) 廣瀬肇「海上警察に関する一考察」伊藤満先生米寿記念『憲法と行政法の現在』(2000年)73頁。

(4) 村上暦造「領海警備の法構造」海上保安大学研究報告45巻1号45頁以下。

(5) 廣瀬「海難救助と海上保安庁法」『海上保安と海難』(1996年)27頁以下では、この藤田説が反映された論が展開されている。

(6) この論点について、廣瀬教授は、前出注(3)89頁において、「海上警察権限は、国際法と国内法の双方から二重に限界を定められているとともに、その双方を警察権の根拠として、権限を行使する」と書かれており、より踏み込んだ見解を示されている。また、村上教授は、前出注(4)48頁において、領海警備が国際法上の措置であって軍事措置であるという見方について、わが国の海上保安庁法の特色から、海上保安庁が領海警備の役割を担うことを導く。これらの見解は、わが国に特徴的な海上保安庁法の仕組みと、海軍組織の存在を前提とした国際法上の議論との調整の必要性を指摘しているように思われる。

 

 

 

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