芝池義一『行政法総論講義』では、組織法的授権(行政機関に対する権限の配分)について、作用法的授権との区別は相対化されており、組織法的授権が具体的行政作用の授権としても肯定されることに踏み込んだ理解を示している。芝池教授によると、組織規範と作用規範、根拠規範と規制規範といった分析の道具が、実際にはあまり有用ではなく、各行政法令の目的、授権の包括性、権限行使のために法令が用意した手段の内容といった部分についても、トータルに解釈論の中に取り込むことが要請されることになる。
藤田・芝池両教授の学説は、それぞれニュアンスが異なるが、筆者としても共感する部分がある。具体的行政活動を授権するといっても、臨機に事実上の措置を行うような、要件と効果の明文化がそもそも困難であったり、内容的に複合的な(国民に対する侵害と授益が混じり合ったり、非権力的なサーヴィス提供の要素があったりするもの)行政措置であって、概括的授権にならざるを得ない性格のものであれば、組織法・作用法といった理論上の区分に拘泥することには意味がないように思われる。紹介した事例に見られたように、要請を受けて出動して救助をする、消息不明なものを探索する、といった行政作用は、法律の留保論からみても、組織法上の責務規範ないし組織法的授権で根拠づけられていれば十分であり、それ以上の作用法の根拠は不要とする見解も、相当に説得力がある。もちろん、そこから先、授権された行政作用についてどのような規制規範がかかってゆくのかは、海上保安庁法の解釈論、さらには、国際法の解釈論となるように思われる。誤解のないように補足すれば、司法警察員として捜査・逮捕等を行ったり、相手方の意思に反する権力的事実行為を行うような、典型的な公権力の行使をする場合には、法律の留保の理論上、単なる「責務」なり「組織法的授権」では足りないのは当然であって、作用法上の明確な授権を必要とすることになる。また、別の問題として、行政措置の不作為の違法が国家賠償請求されたり、探索について特定の国民の側に何らかの警察介入請求ができるか、といった事柄の結論は、組織法的授権を前提に、当該法令の全体の解釈から導くことになる。
ちなみに、海上保安庁法が、公海上の外国船舶との関係で適用できるのか?という点について、あまり問題にされないのは、これが、わが国の行政組織の事務の分配を定めた行政組織法であるから、と考えられる。