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警察法二条が具体的な警察活動の根拠規範となり得るのか?という問題について、行政法の通説は、組織規範と根拠規範の峻別の上、行政作用の根拠規範にはならないとする。他方、警察実務は、右は根拠規範ではあるが、一般的なものであると解釈する。この状況に対して、藤田教授は、「責務」規範という考え方を提示し、警察法上の「個人の生命、身体、財産の保護に任じ」という規定の解釈について一石を投じたのである。この藤田説が、海上保安庁法1条1項の解釈という点でも、示唆的であることは明らかであろう。(5)この論文の段階で、藤田説は、警察法2条も警察作用の根拠規範となり得る可能性を認め、制限規範としての側面のみが強調されがちであった戦後の警察法理論の転換の可能性を示唆していた。右の議論の背景には、日本の警察法理論が、包括的委任の下での条理(美濃部達吉・田中二郎の用語=法の一般原則と同義)による規律という、戦前のドイツ理論・美濃部理論の域を脱していないことを克服しようとする問題意識があることは明らかである。これと同じ文脈での議論は、海上警察権に関する現在の国内行政法上の解釈論についても当てはまる。

その後に公刊された藤田『行政組織法』(1994年)27頁では、右の「責務規範」という発想が、行政組織法全体に拡張されている。藤田教授は、組織法上の役割分担について、これを組織の中での「権限と責務」の配分と捉える。そこで、「権限」とは、ある行動をする法的権能のことをいい、「責務」とは、ある行動をする法的義務を指すとされる。法令の規定によってある者に「権限」が与えられることは、同時に、この者はその権限を法令がそれを与えた趣旨に従って行動する「責務」をも負うものといってよいのであり、「権限」と「責務」とは裏腹の関係にある。

ここまで見てきた藤田教授の説明は、行政機関概念の理論的検討の箇所で行われていて、意図が不明な部分もあるが、組織法上の権限分配規定が、具体的な行政活動の根拠となり得る可能性を含意するとも読める。もちろん、その場合に、法令が責務を与えた趣旨の解釈がポイントになることを見落としてはならない。

 

 

 

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