すなわち、1]海上治安の維持、2]海上交通の安全確保、3]海洋レジャーの安全確保、4]海難救助、5]海洋環境の保全と海上防災、6]自然災害への対応、7]海洋調査と海洋情報の提供、8]航路標識業務、9]海上保安に関する国際活動、である。
以上のような実務上の理解を踏まえると、事案として紹介した事例は、海上保安庁の業務の中で、海上治安の維持・海難救助・海上保安に関する国際協力、といったカテゴリーと係わる。しかし、与えられた事実関係による限りは、当該措置の目的レベルでは、救助ないし国際協力という、正面(建前?)の行政目的は、積極的な性質を持つものであり、それに必要な限度で付随的に公権力の行使がなされた、という形で理解される。そして、以上に述べた海上保安庁の業務の分類は、海上保安庁法の「組織」に係わる規定の部分に掲げられたものである。そこで、まず、今回の事例について、海上保安庁法の組織規範の解釈という視点から考察を進めてみたい。
(2) 海上保安庁法の組織規範(1条1項、2条1項、5条)の意義
今回報告した事例を法的に考察するための手掛かりとなるのは、海上保安庁法1条1項の、組織の目的として規定された、「海上において、人命及び財産を保護し、並びに法律の違反を予防し、捜査し、鎮圧するため」という部分と、同2条1項に組織の任務として掲げられた、「海難救助」、「その他海上の安全の確保に関する事務」という部分ということになる。さらには、同法5条の所掌事務規定の中の、幾つか、例えば2号、3号、14号ということになる。もちろん、同条28号によると解釈することも可能であるが、その場合には、法2条1項について相当に厳密な解釈が要求されることになる。
これらは、いずれも行政組織法ないし組織規範ということになる。そこで、行政法学上、行政組織法による授権の法的性格に関する議論を参照することから始めたい。そのポイントは、組織規範による権限の授権が、個別の行政措置の根拠規範としてどのような意味をもつのか、標題的に述べるならば「法律の留保論における組織法と作用法の関係」という問題である。
この問題については、藤田宙靖教授のいくつかの業績が参考になる。藤田教授は、論文「警察法二条の意義に関する若干の考察(一)(二)」法学五二巻五号(一九八八年)一頁以下、同五三巻二号(一九八九年)七七頁以下において、権限と責務という観点から分析を行う。