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事例5では旗国の同意があったとされるが、事例1では「関係国と連絡を保つとともにその要請を受け」て出動した旨説明されており、旗国の同意については必ずしも明らかではない。また、事例1では、暴動を起こした乗組員の国籍のあるフィリピン領事館領事を同行させて説得に当たらせている。いずれも、海上保安官が司法警察員として捜査等を行う局面ではなく、船舶からの救助要請に対応した事例ということになろう。

事例2は、公海上の外国船舶内で殺人等が行われた後、わが国領海内に漂流し、必要な救助・情報収集がなされたものである。事実としては、海難救助と、旗国(韓国)の捜査活動に対する事実上の協力がなされなもの、と位置づけられるであろう。

事例3と事例4は、日本の船舶会社の運航する船舶が、東南アジア地域での海上武装強盗の襲撃によって消息不明となり、海上保安庁がこれを捜索した事例である。事例3では、日本人の高級船員が被害にあっており、メディア等でも大いに注目されることとなった。いずれも、公海海上警察権の行使として海賊事例に対応したものとは言い難く、救助のための捜索として説明されるものであろう。

 

4 海上保安行政と武装強盗・海賊類似事案への対応

(1) 序

3に掲げた事例について、海上保安行政の法的分析、具体的には、海上保安庁法の解釈論を踏まえつつ、考察を進めることとしたい。

海上保安庁の業務について、荒井正吾・海上保安庁長官の発言(新聞紙上における対談)によれば、5つの類型がある。すなわち、1]海上における治安の維持、2]航行安全の確保、3]海難救助、4]海上防災・海洋環境保全、5]国際協力である。荒井長官は、伝統的な業務である航行安全・救難・防災の他に、いわゆる領海警備が非常に大きな仕事になりつつあることを述べるが、領海警備が右の類型のうちどれに属するのか、それ自体が問題になるであろう。(4)

また、海上保安庁法の業務について、海上保安白書―第2部海上保安の動向―によると、9つの類型に整理されている。

 

 

 

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