(2) EB-CARRIER号船内暴動事件(平成元年)
パナマ船籍の鉱石運搬船であるEBキャリア号(86098トン。乗組員はイギリス人5名、フィリピン人34名の計39名)が、韓国・釜山港からオーストラリアに航行中の平成元年8月13日に、沖縄本島の南西326キロメートルの公海上において、フィリピン人船員の一部が船内で暴動を起こし、船長以下のイギリス人高級船員を監禁・脅迫しており、ヘリコプター等による救助を要請する通報が、インマルサットを通じて直接海上保安庁に繰り返しもたらされた。海上保安庁は、関係国との連絡を保つとともにその要請を受け、第11管区海上保安本部に対策本部を設置し、巡視艇・航空機を現場に出動させ、無線にて実情の把握・説得及び警戒監視に当たった。14日には、海上保安庁のYS11機に乗り込んだ在那覇フィリピン領事館領事が無線で事情聴取及び説得を行うとともに、海上保安官19名が同船に乗り移り、事態の鎮静化に努めた。その結果、同船内での事態がフィリピン人船員の待遇改善要求であることが明らかになったが、イギリス人・フィリピン人側双方の要請によって海上保安官9名を乗船させたうえで15日に那覇港外に投錨し、フィリピン領事を介して話し合いが行われた。
このEBキャリア号事件は、公海上の外国の船舶で発生した騒乱であり、乗組員にも日本人がいないケースについて、船長からの救助要請によりわが国の海上保安庁が事実上の対応をした例である。
(3) PESCA MAR号乗組員船内死亡事件(平成8年)
平成8年8月2日、ハワイ南方2200キロメートルの公海上で、ホンジュラス船籍の遠洋マグロ漁船ペスカマー15号(254トン。乗組員は韓国人7名、中国人7名、インドネシア人10名。このうち中国人船員は、いずれも中国朝鮮族であり、テニアンで途中乗船した後に、マグロ漁に参加することになっていた)において、中国人船員らが、韓国人船員ら計11名を殺害した。その後、韓国人船員のうち唯一の生存者である一等航海士とインドネシア船員6名が、機会を見て反乱船員を漁倉に閉じ込めることに成功し、8月22日に同船内の反乱は制圧された。しかし、同船は、燃料不足によって漂流を始め、8月24日、鳥島近海のわが国領海内で、救難信号を発信し漂流中の同船を、東京都漁業指導船「みやこ」が発見し、海上保安庁に通報がなされた。