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次に、国内法上の海上警察概念を構築しようとする場合に、上記の国際法上の海上警察概念(筆者の理解する限りでの話である)に照応するということでイメージするならば、沿岸国に属する海域において、海上犯罪の取り締まりなど、違法な船舶等に対する強制措置を行う作用ということになろう。しかし、このままでは、刑事訴訟法に規律される司法警察作用という側面が強くなりすぎ、行政法学上の「警察」概念とは乖離してしまうおそれがある。海上行政警察という法概念を立てるとか、海上保安作用という法概念を構想する、といったことも、行政法学界の中で、真剣に検討されるべきであろう。

なお、国際法上の「海上警察権」をわが国において戦後最初に用いた文献として引用される、高野雄一「常識講話・海上警察権」ジュリスト三八号(1953年)26頁には、「海上警察というときは普通には公海における警察(la police de la haute mer)を問題とする」と述べられている。筆者は、国際法学の研究者ではないが、高野論文において、policeというフランス語が用いられていること、フランスにおけるpoliceの法概念が日本語で「警察」と言う場合と少なくとも行政法学上は齟齬があること、また、policeという法概念には固有の含意があって法執行作用と一致するものではないこと、したがって、わが国で「海上警察権」という用語法によったとき、これを行政法学・警察法の観点から捉えようとするときには、そこに表現された「警察」概念の内容について精密な議論が必要である、と考えている。

さらに、山本草二教授の著作『国際刑事法』(1991年)245頁には、「公海上の外国船舶による各種の海上犯罪の規制について、関係諸国による国家管轄権の行使を調整しその限界を定めるものであり、とくに強制措置を伴う権力行為(actes d'autorite)が、公海海上警察権とよばれている」という記述がある。ここでも、actes d'autoriteというフランス行政法学上の基礎概念が用いられている。フランス語でactes d'autoriteという場合には、これを組織法的に行政機関の行為ととらえる場合と、作用法的に行為の性質の公権力性を重視する場合とがある。

 

 

 

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