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さらに、可能であるならば、将来的課題として、右の法的仕組みを総合する海洋管理法制(海上警察法制といっても良い)の構築が望ましいと考える。もちろん、この場合には、わが国に属する海域を越えた公海上において、わが国の国家機関が救助等の措置を行うような場合についても、法制度の中に明確に位置付けをする必要があることになろう。

わが国の行政法学において、海洋管理のあり方につき比較法的研究がなされる場合も、それが公物管理法であることを前提に、アメリカの公共信託理論や、フランスの公所有権理論等が参照されてきた。しかし、これらの比較法研究でも、アメリカやフランスにおける海上警察作用の部分が必ずしもバランス良く紹介されてこず、全体としての海洋管理法制のあり方が十分に掴みきれていないように思われる。

いずれにしても、海上行政警察について、行政法的検討をする場合の最大の手掛かりは、海上保安庁法ということになる。同法については、組織規範と授権規範が混在し、わが国の通常の行政組織法(いわゆる設置法)とはいささか内容を異にする部分があり、わが国の行政法理論の側から見た場合に、やや異質との印象を受ける。これは、海軍の全く存在しない中で海上行政警察を所掌する行政組織を設置するという問題状況や、海上保安庁・海上保安官についてアメリカの沿岸警備隊をモデルにアメリカ法的な立法になったという経緯等が、ドイツ的な行政法の残滓を色濃く残すわが国の行政組織法令の中で、海上保安庁法を特色づけたものと理解することができる。この、海上保安庁法の異質性については、決してこれを否定的に評価すべきではなく、むしろ、一般的な行政法学の「常識」の方に問題があり、海上保安庁法の特色(アメリカ行政法的な部分と言っても良い)には、そこから行政組織法・行政警察法の理論を展開する胚芽がある、と解することが可能であると考えられる。

 

(3) 海上警察概念の検討

海上警察の法概念については、国際法上のそれと、国内行政法上のそれを、明確かつ自覚的に区分することが、議論の大前提でなければならない。国際法上の海上警察は、「公海海上警察権」という法概念に由来する。(2)筆者がここで国際法学上の議論をする能力も意図もないのであるが、旗国主義の例外として、公海上での外国船舶等の違法行為に対する法執行活動・強制措置を称するものとして、国際法上確立した概念と言えるのであろう。

 

 

 

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