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そのために、この領水内の武装強盗に対しては、国際社会は新たな対応が要求されることになるが、そのための動きとして、一つはローマ条約の適用の可否が問われているのであり、いま一つはIMO及び国連を中心とした対応策がある。以下、これらについて、簡単に触れておきたい。

 

(1) ローマ条約適用の可否

1985年のパレスチナゲリラによるアキレ・ラウロ号の乗取事件を契機として、1988年には「海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(いわゆる「ローマ条約」又は「シージャック防止条約」)及び議定書が採択され、1992年3月1日に発効している。この条約は、船舶を奪取し又は支配する行為、あるいは暴力行為、船舶・積荷の破壊などにより船舶の安全航行を阻害する行為を「犯罪行為」として定義し(第3条)、一定の国による裁判権行使を規定した。船舶の旗国、犯行地国、犯人の国籍国は裁判権設定が義務づけられ(第6条(1)、犯人が無国籍者の場合の居住地国、被害者の国籍国、被強要国(ターゲット国)は裁判権を設定する権利が認められている(第6条(2))。さらに、犯人所在国は、犯人を引渡さない場合に自国による裁判権設定が義務づけられるとともに(第6条(4))、犯人の所在を確保するため抑留その他の措置をとり、事実に関する予備調査を行う(第7条(1))。その犯人を他国に引渡さない場合には、犯罪行為が自国領域で行われたと否とを問わず、いかなる例外なしに、処罰手続をとることが義務づけられる(第10条(1))。

ローマ条約の対象船舶としては、軍艦、軍の補助船、税関・警察用船舶および係船中の船舶を除き、すべての船舶を想定するとともに(第2条)、その「船舶が一の国の領海の限界を越えた水域若しくは隣接国の領海との境界を越えた水域を航行しまたはその予定である場合に」適用される(同条約4条(1))。この結果、当該船舶が公海上を航行する場合はもちろん、領海内にある船舶であっても、それが一つの国の領海外へ航行する予定を有する限りローマ条約の対象となる(25)

このようなローマ条約の枠組みは領海及び内水内の武装強盗の抑止にも有効であるとして、東南アジアの関係諸国が同条約に加入し、その枠組みを利用するべきであるという見解も主張されている(26)

 

 

 

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