日本財団 図書館


この草案では、マツダ草案のように領海及び公海という海域区分は使用せず、「国の領域管轄権内の場所」と「いずれの国の領域管轄権内でもない場所」という区分を用いているが、その意味はほぼ同じである。草案に付されたコメントによれば、海賊行為の場所として、いずれの国の「領域管轄権内でもない場所」に限定することについては、学者の一般的傾向によって裏付けられているとしている。(24)その理由について、各国が自国領域の排他性に高い関心を有していることを指摘している。それは、領海が沿岸国の領域主権の及ぶ海域であり、そこで行われる犯罪行為は沿岸国の利益に反すると見るべきものであり、これをすべての国の普遍的管轄権に服せしめることとはしないという趣旨である。国際法上の海賊については、沿岸国の領海は、国際法が規律する範囲外であるというルールが、この時点で確立されていたと言わなければならない。それは、1956年の国際法委員会草案第38条及び39条において、海賊行為は「公海上又はいずれの国の管轄権にも服さない場所」における行為であるという条項になり、そのまま1958年公海条約及び1982年国連海洋法条約の条項に引き継がれているのである。

 

3 領水内の武装強盗

公海条約及び国連海洋法条約に規定された「国際法上の海賊行為」は、その犯罪場所を「公海上又はいずれの国の領域管轄権にも含まれない場所」に限定してきた。伝統的な海賊とは、このように公海上の海賊行為を意味するものである。それは、20世紀の国際社会においては、領海が沿岸国の領域の一部であり、外国船舶の無害通航権が認められるにせよ、それ以外の事項については沿岸国に強い排他性を持った領域権能が認められるという観念を前提として成立してきたものである。そうだとすれば、現在の東南アジアにおける領水内における武装強盗の問題は、条約に定める「国際法上の海賊行為」の問題として対応することができないことは明らかである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION