終わりに、本稿においては、最近の多くの海賊及び海賊類似事件の発生について、事実関係に気をとられすぎ、国際法上の海賊事件と海賊類似事件との理論的区別とその法的対処についてはまことに不十分のままであること、及び海賊事件等に対応する、海上保安庁法第18条の解釈論にも踏み込むことができなかった。これらの諸点については、改めて、考察したいと考えている次第である。
〔注〕
(1) 例えば、門田修、海賊の心・スールー海賊訪問記(1990年)5頁。そこでの記述を若干引用すれば、「スールー諸島がボルネオとぶつかるところが海賊たちの海になっている。そこにはフィリピンとマレーシアの国境が走っているのだが、それは海賊たちにとっては都合のいいことである。国境を利用して海賊たちは犯罪をはたらく。マレーシア側で海賊をし、追手を振りきりフィリピン側へ逃げるとか、警備の手薄な国境線上で襲うなど、マニラやクワラルンプールからみれば辺境の海で海賊は今も活動している。…海賊は残酷で非情だ。まるで熱帯の明るい海に深紅の鮮血が似合うとでもいいたげに、簡単に人殺しをする。マシンガンをぶっぱなし、死体を海に捨てる。それはたちまち鮫やダツなどの肉食魚に食べられてしまい、無残な姿を人前にさらすことはない。誰もが誰が海賊であるかを知っている。だが海賊が海賊として捕まることはない。広い海の上でのできごとだ。逃げ込むのに適当な小島もたくさんある。軍や警察は海賊事件にはたいして関心を払わず、海賊を追いかけようともしない。ますます海賊は増長する。」と述べている。
(2) 2000年1月29日、The STRAITS TIMESによれば、中国Cheung Son号の海賊13名に死刑を執行。Cheung Son号の乗組員全員を殺害した海賊13名(うち1名は窃盗のみ)に対し、中国は減刑要求を退け、死刑を執行した。海賊のうち12名は中国人、1名がインドネシア人である。Cheung Son号の海賊は、全部で38名おり、死刑を免れた者のうち19名が禁固10年から無期懲役、6名が無罪となっている。