川勝平太氏は富国有徳のすすめの中で、「日本の輸入貨物の99%(重量ベース)が海上輸送に頼っていることに照らし、国境をこえたシーレーンの安全確保のためには、近隣の海洋アジア諸地域の協力による海賊防止の警察活動が不可欠です。」と述べている(22)。
次いで考えておくべきことは(勿論実務的にはなされていることであろうが)、海賊及び海賊類似の諸事例に、執行権として対応する国内法の根拠とその解釈について、想定される事例に対し、擬律判断を詳細に行い、準備をしておくことと思われる。具体的には、我が国の海上警察機関の権限行使の根拠を定める海上保安庁法(昭和23年法律28号)の検討、取り分け同法第18条の適用可能性の検討が重要であると考えられる。
これらの問題について、より高い次元から示された山本草二教授の見解を次に引用しておきたい。それは、「日本の船も、外国の船も、遠い公海で我が国の海上保安庁の保護と助けを求めており、そういう暴力行為に襲いかかられて危険にさらされている船、これは新しいタイプの海難といってもいいでしょう。
海難とは、昔は火事を起こしたり、あるいは座礁し難破した場合をいったのですが、近年はそういう不審船に襲撃されて航行の安全を侵されるという意味で、新しい海難と考えていいのではないのでしょうか。そういうような救助・救援を求める声が上ったときに、それを見て見ぬ振りをする、法律上の根拠が十分でないから手出しをしないというのでは、棄民の思想だともいえましょう。海で危険に晒されて人が助けてくれといっているときに、すぐ出ていって保護する、あるいは、違法行為の現行犯を抑えるということを通じて、海の秩序を守っていく。これが海上保安の本来の責任であり、海洋法を動かしていく原動力になると考えます。」とされる(23)のである。
海上保安庁法第5条2号は、所掌事務の一つとして、「海難の際の人命、積荷及び船舶の救助並びに天災事変その他救済を必要とする場合における援助に関すること。」と規定しているが、ここにう「海難」の内容について、実務的には、従来から、海上保安庁法第1条の海上保安庁の設置目的及び同法第2条の任務の内容から考えて、海難の原因により、救助すべきか否かを区別して規定しているとは考えられないことから、武器等により暴力行為を受けた結果としての海難も含まれるものと解してきた(24)ようであり、これと先の見解とは、平仄の合う議論であるように思われる。