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次に、国旗を掲揚せず、我が国の船舶、とりわけ漁船等に、なんらの根拠を(官憲である証明等)示すことなく、臨検まがいの行為、あるいは言語道断のことながら略奪行為にまで及ぶ船舶、しかも、我が国巡視船による呼びかけや問いかけに全く応答することもないような状況であれば、後に公務員が乗船しており、あるいは、政府のミッションであったとの説明がなされたとしても、これは海賊であるとみて措置すべき方向で検討しておく必要があるのではないかと思われる。ソビエト巡回艇ラズエズノイ号事件において、我が国裁判所は、不開港寄港の罪で有罪としていることが参考になる(20)

さて、先に見たように、戦後我が国の海上保安庁が扱った事件事例を分析すれば、その殆どが、国際法上の海賊概念には当てはまらず、海賊類似の事件であり、あるいは、東南アジア海域での事例はいわゆる武装強盗であって、国際法の議論からは少しくはみだすもののようであると考えられる。このような現実に直面して、それは海賊を「国際法上の犯罪」と位置付けて、各国に海賊鎮圧・制裁の義務を課す方向で考えるべきとの見解を実現する方向で、解決できる面もあると思われる。しかしそれが実現したとしてもなお、規律の範囲には含まれない部分は残ってしまう。その際の考え方として、関係国間の密接な連絡・通報体制を整備して、関連情報を迅速に伝達して、関係国が情報を共有し、それに基づいて関係国すべてが対応すること。法制的に、海賊・武装強盗犯人がいずれの国に逃げてもこれを捕捉、逮捕し、確実に処罰することが必要である。そのため、関係船舶の旗国、犯行地国、犯人の国籍国、船舶の入港国など、多くの国が密接に協力すること。例えば、関係国による共同パトロールを行ったり、海賊船舶が犯行地国の海域から別の国の海域に逃亡したとしても、犯行地国の警備当局が追跡を継続できるような枠組みを整備する。また、犯人が所在する国が、その身柄を拘束し、自国で処罰するか、あるいは他国による処罰のために犯人を引き渡すような枠組みも必要である。そのいくつかはIMOの海上安全委員会(MSC)においても検討が開始されたところではあるが、なによりも東南アジア各国を中心とした関係国自らがその方向で協力していくことが求められている、とする提言もある(21)。つまり、現実に即した、二国間あるいは多国間の協定等により、取締・警備当局の相互協力の準備を早急に実現すべきとの主張であるように思われる。

 

 

 

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