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「そうした問題に直面するたびに私たちは、海賊概念が妥当する限界に立ちもどって問題解決についての判断を固めることになる(16)」と考えられるのである。そして、「テロリズムをはじめ今日の海上犯罪は、もっと複雑で深刻であり、その訴追・処罰を確実にしようという熱意が各国の合意を得られるのであれば、それこそ『国際法上の犯罪』として位置づけ、その鎮圧・制裁について各国に条約上の『義務』を課するという方向で、問題にとりくむべきであろう。」とされる(17)のである。

 

4. まとめにかえて

東シナ海等の公海上における国籍不明船による付近通行船舶への、無差別の射撃や停船の強要、そして乗船の上の捜索や場合によっては略奪という行為について、これらの一連の暴力行為が、「国際法上の海賊」に該当するか否かは重要な検討課題である。しかし、海賊に対応する国内法に目を向けるとき、たとえ、国際法上の海賊であるとしても、それに対応した国内法がなければ、我が国としては必要な措置を執ることができない。海賊に対する国内法を検討するに際しては、それを処罰する国内法と海上で捕捉するための執行権限の問題とがある。立法管轄権と執行管轄権の両面から見た国内法上の根拠の問題を考察しなければならない(18)

確かに国連海洋法条約によれば、海賊行為に対しては、いわゆる普遍主義により、すべての国は、公海上の海賊船舶と海賊航空機に対して拿捕、逮捕または押収しさらに起訴、処罰できるなど、立法・執行・司法の管轄権が認められるものである(19)。そうであるなら、我が国政府に属する海上警察機関の船舶が、公海上の海賊を、鎮圧・抑止できることは当然のことといわねばならない。しかしながら、我が国には、公海上において、外国籍船による外国籍船への海賊行為を処罰する法制を有してはいない。それは、このような事例にあって、国内法としての刑事手続はとれないことを意味する。これが一の、重大且つ早急な配慮を必要とする問題点であるように思われる。即ち、国内法整備の問題である。

 

 

 

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