これらの犯罪は、国際社会の一般法益を害する罪であり多数の国をまきこむ重大なものであるにかかわらずその政治性に共鳴し支援する国もあって、十分に取締ることができなかった。そこで、容疑者がどこに逃亡しても確実に処罰できるよう、犯罪の隠れ家(ヘイブン)をつぶして取締りの実効性をあげるには、このように条約で義務付づけをしなければならなかったのである。したがって、海賊とテロリズムとは、もともとは全く別々の前提と体系をもつ犯罪として位置づけられてきた、といえよう。」と説明される(13)。
このように見てくると、国際法上の海賊概念は、私的な利益のために行われる行為を対象とし、革命・反乱など政治性を伴う行為を含まないこと、公海上の船舶の航行とか海上交通の一般的安全を直接に侵害する行為に限るものとされていることから、「侵害法益の性質や態様という面からみれば、海賊概念の内容はきびしく特定されていた」のであり、「海賊はしばしば『人類共通の敵』といわれるが、だからといって海賊が『国際法上の犯罪』であったり、その取締りと訴追について各国に義務を課するものだ、とは断定できない。むしろその刑事管轄権の行使の面からみれば、海賊は、海上航行という万国共通の法益・秩序を害する普通犯罪であり、その鎮圧について各国に共通の管轄権を行使することを『許容』したものである。国際法が直接に犯罪の構成要件や法律効果を定め、その履行・遵守を各国に義務付ける、といった性質のものではない(14)。」
かくして、結論的に、「海賊は、国際法上その構成要件を確定するのがなかなか容易ではないにしても、今日では、特定の国際関係のもとでの法益を害する犯罪であり、その適用範囲は想像以上に限定されている、と割切って考えるべきではないか、とさえいえよう。」とされるのは示唆的であるというか、海賊と海賊類似の問題との区別あるいは、その解決に関連して、誤解を避ける出発点であるように思われる(15)。
現時点においては、海賊類似の事件について、その態様や水域等を勘案し、国際法上の「海賊」の枠組みにとらわれ過ぎずに、海賊類似の事件解決の方法論を考えなければならないということを示している。