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この点について、山本草二教授は、「海賊は、国際法が直接に犯罪の構成要件そのものを定めた『国際法上の犯罪』なのか、それとも、ひろく多数の諸国が共通の利害関係をもつ法益を害する行為であるとはいえ、『万国共通の犯罪』にとどまり、国際法ではその定義を定め犯罪として処罰すべきものとするだけであって、犯罪の構成要件の決定とその訴追・処罰の要件はすべて内国刑法に委ねる、という立場が対立しているからである。ただ、後者(万国共通の犯罪)の立場に従っても、各国内法で海賊と定めた行為であっても、これを他国に有効に適用するためには、国際法上の海賊の定義の範囲に収まる行為であることが必要であるとされる。さらに、今日では、政治的な目的または動機をもったテロリズム犯罪が船舶を介して行われる事犯が多く、その場合にもしばしぱ、海賊に準じた取締りの権限が主張される。たとえば、現政府の反対勢力に属する武装集団が乗客として乗り込み、公海を航行中に客船の船長を監禁して奪取し乗組員を殺傷した場合に(サンタ・マリア号事件)、これを海賊として扱えるかどうか、判断が対立した。被害船の旗国(ポルトガル)は、海賊行為と解し、米・英等の海軍に追跡を依頼したが、同船の入港国(ブラジル)は、船舶を旗国に引き渡したものの実行行為者には政治亡命を認めた。武装集団による暴力行為が、特定国を対象とした政治的な目的のものであり、公海上の航行一般を害していないこと、同一船舶内で発生した事件であることを理由に、海賊の二つの構成要件を充たしていないと、判断されたのである。」とされる。次いで、アキレ・ラウロ号事件、この事件は、パレスチナ解放機構の一員と称するアラブ人の一団が、エジプト沖合の公海を航行中のイタリア船籍の観光船の船内で、暴力・威嚇手段を用いて運航を奪取し、乗客を人質にとって監禁したうえ、その一名(米国民)を殺害した。イスラエルに対して、拘禁中のパレスチナ・ゲリラの釈放を要求するのが、その目的であった。しかし米国は、犯人を乗せてチュニスに向かっていたエジプト機を公海上空で迎撃し、イタリアのシチリア島にある北大西洋条約機構軍の基地に強制着陸させ、イタリアが犯人の身柄を拘束して司法手続きに付した。米国は、人質奪取と海賊行為を根拠にその身柄引渡要求を行ったが、イタリアは、この要求をしりぞけて、船舶の不法奪取と殺人の罪名により、自国で訴追し処罰したという事件である。

 

 

 

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