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旗国シンガポール政府の要請を受け、負傷者の救助と暴動の沈静化を図るため、巡視船4隻と航空機5機が出動。同船を宮古島に向かわせ、時化の中、午後7時58分から5日午前1時58分までに、武装した海上保安官約30人がヘリコプターと警救艇から乗り込み、頭部打撲、左腕骨折の中国人船長を警救艇へ収容、巡視船で5日午前1時50分、宮古島へ運んだ。一方、暴動をおこしていた中国人乗組員9名全員の身柄を確保し、9名は乗組員によって船内に隔離され、同船は7時10分にマニラに向けて航行を開始した。調べによると、日頃から船長と対立関係にあった9名が、船内での飲酒を注意されたことから、船長に対しナイフ、鉄パイプで暴行したという(10)

 

3. 国連海洋法条約上の海賊概念について

国際慣習法上、海賊に対しては、どの国も軍艦、軍用航空機その他の政府の公務に従事する船舶または航空機による拿捕、逮捕、財産の押収などの警察権の行使が認められるほか、自国の裁判所で起訴・処罰を行う権能をもつとされる。海賊行為とは、私有の船舶・航空機の乗組員または乗客が行う「不法な暴力行為、抑留、略奪行為」であって特に次の二つの構成要件を具えるものをいう。一つは、公海上の他の船舶・航空機またはその内にある人・財産に対してか、いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶・航空機・人・財産に対して行われる行為であることを要する。したがって航空機不法奪取のように同一の船舶・航空機内での乗客・乗組員が行う行為は、海賊行為に該当しない。

もう一つは、これらの行為が「私的目的のために」行なわれることである。したがって、個人が私的利益の追求のためにまたは正当な権限なくして行う場合が含まれる反面、交戦団体など、国際法上、他国に対して国家行為の一部を行使する権限を認められているものが行った行為は海賊行為に該当しないものとされる(11)

しかしながら、海賊の定義や要件が国際法上明確かつ一義的に確定した内容になっているかどうか、この点について各国の判断は対立し、このことが、他の海上犯罪に対する海賊概念の類推の可否とその程度を定めるさいの障害にもなっている、とされる。

 

 

 

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