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しかしながら、もし海賊行為に該当するとしても、我が国の国内法の手当てということについて、外国船内の外国人による外国人に対する公海上の事件であることから、我が国の刑法は適用されず、刑事訴訟法の適用もまたないということになる。従って、刑訴上の逮捕という権限行使はできないが、海上保安庁法による立入検査、質問、船舶の進行停止、出発の差止め、航路の変更を行うことは出来るということと、これに抵抗するような場合には、実力をもって海賊行為から人を防護することはできるものと解し、さらに、正当防衛に当たるような場合には、緊急的に逮捕等の実力行使を行ったとしても、海上保安官の職務の適法正が問われることがあるとしても、違法性が阻却されるものと解して対応できるのではないかとの議論がなされたという。

次に、本件が海賊行為に該当しない場合、急迫不正の侵害が立証できれば、当該船舶自身のため、正当防衛(自衛の権利)を代わりに行ってほしいとの要請をうけた巡視船が、これを抑止する措置を講じても国際的非難を受けることはないであろうこと。また、このような要請に応じなければならない義務は無いけれども、応じなければ国際信用は失墜するおそれがあることも考慮しなければならないであろうこと等も総合的に検討された。本件は、関係国の口上書という形の要請を受けて、海上保安庁法を根拠に介入し得るとの判断であったようであるが、結果は、海賊でもなく、船内暴動でもなく、待遇改善要求になってしまったというものであった。

しかしながら、この場合、海上保安庁法に根拠ありとして措置したことに対して国内的にも国際的にも、なんら非難やクレームも出てはいないことから、今後一つの先例として機能するものであると同時に、我が国によるこの種の事件への対応は、自然法的には当然に、あるいはむしろ義務としてその責任を引き受けなければならない場合もあると考えられる。

8] アセアン・エクスプレス号船内暴動事件

平成12年8月4日、午後3時5分、シンガポール船籍貨物船アセアン・エクスプレス号(10727トン)から、海上保安庁第11管区本部に、那覇の西北西330キロで船長が船員から暴行を受け重傷を負ったとの救助要請があった。

 

 

 

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