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本件事件処理においては、事件発生直後から、関係国と密接な連絡を保ち、海上保安庁が介入することについて包括的な同意を得て、14日午前、海上保安官19名をE号に派遣してこれに乗船させ、当事者の説得に努めた。その後、両当事者が那覇回航を希望した時点で一応暴動の状態は沈静化し、待遇改善を求める民事問題になったが、両当事者の強い要望により海上保安官9名を乗船させた上、巡視船艇4隻が直接護衛し、15日0710那覇港外に投錨して一応の決着をみた。

本件は、外国船舶内の外国人による外国人への暴力・暴動事件である。これに海上保安庁が関与したわけであるからその根拠は如何にということになる。当時は公海条約の時代でその第14条は、「すべての国は、可能な最大限度まで、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所における海賊行為の抑止に協力するものとする」と規定し、同条約第19条では、「いずれの国も、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所において、海賊船舶、海賊航空機又は海賊行為によって奪取され、かつ、海賊の支配下にある船舶を拿捕し、及び当該船舶又は航空機内の人又は財産を逮捕し又押収することができる。拿捕を行った国の裁判所は、課すべき刑罰を決定することができ、また、善意の第三者の権利を尊重することを条件として、当該船舶、航空機又は財産について執るべき措置を決定することができる」と規定していたから、本件が海賊に該当するのであれば、旗国からの同意は必要ではなく、海上保安庁としては、国際法に基づき、海賊を鎮圧することができるからということで、船内暴動というものが海賊行為に当たるか否かが検討されたという事例であった。結果は、本件も、海賊行為には該当しないとされたが、それ以後の海上治安の在り方に新しい一石を投じたものとなったとされる(9)

この事件における議論として、国際法上の海賊には2種類あり、一つは他の船舶に対するもの、もう一つは自船内におけるものが考えられ、他の船舶に対するものは、公海に関する条約第15条1項a項(海洋法条約第101条(a)i)で読み、自船内のものは、同項b(同(a)ii)で読むことができるのではないか、そして、b項には「他の船舶」という限定がないことと、「いずれの国の管轄権にも服さない場所」には公海も含まれるはずであるから、海賊といえるのではないかということであった。

 

 

 

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