そこで、このような事態を受けて、政府としては、我が国に関係の深いこれらの日本関係船舶の航行の安全の確保をはかるためには、海賊対策に積極的に取り組む必要があるということから、運輸省、外務省、海上保安庁、(社)日本船主協会からなる「外航船舶に係る窃盗・強盗等対策検討会議」を、平成11年7月に発足させ、民間船舶の自衛手段の検討、海賊事件が発生した場合の連絡方法の確立その他官民一体となった海賊対策について検討を行い、その対策をとりまとめる作業を行った(4)。
また、平成11年11月のアセアン+1首脳会議での小淵総理の発言を受け、国際的な協力体制の下、アセアン諸国等の海上警備責任者を招いての「海賊対策国際会議」が平成12年4月27、28日に開催され、情報窓口の設定、取締りにおける連携協力等について沿岸関係国との間で共通認識を得たとされている。
さてそこで、次に、このような海賊問題を考察するための前提として、海上保安庁が発足以来取り扱った海賊事件あるいは海賊類似事件について、どのようなものがあったのかを、ざっとではあるが見ておきたい。それは現実の問題として、国際法(海洋法条約)で規律するような典型的な海賊というものは少なく、いわゆる海賊問題は、国際法上の海賊問題とは少しく異なっているということから、問題解決の思考を出発させなければならないのではないかと考えるところがあるからである。
2. 海上保安庁が扱った海賊類似事件について(平成以降)
2000年3月のグローバルマース号事件の際の、巡視船「やしま」の南方派遣は、正に海賊事件を取り扱った(に関与した)事例の一つであることは明白である。しかしながら、過去において具体的に海賊船を拿捕したといった事例があるわけではい。海上保安庁が扱う事例は、今後とも国際法上の海賊だけではなく、海賊類似の事例がむしろより多くあるようにも思われる。
1] 平成3年3月18日午前10時半頃、沖縄県魚釣島から337度135海里の公海上を漁場に向け航行中のあま鯛延縄漁船八幡丸(56トン、8名乗組)に、後方から接近してきた国籍不明船2隻(鋼船、12〜13名乗組、約30トンと木船、35〜40名乗組、約50トン)が接近し、1隻が強行接舷した。