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もし、輸入罪の実行行為が「陸揚げ」であるならば、その着手は「陸揚げ」行為に接着した段階で認められることになる。しかし、輸入罪の実行行為はあくまで「輸入」であり、「陸揚げ」はいつ輸入行為が完成するかという問題にすぎないので、輸入行為がいつ始まったとみるべきかという実行の着手の問題は、「輸入」という文言と輸入罪の処罰根拠としての危険の内容という二つの面から検討されるべきものだと思われる。そこで、輸入という文言から検討すると、覚せい剤の輸入が「本邦の領域外から本邦の領域内に覚せい剤を搬入すること」を意味するものである以上、本邦の領域外から領域内に覚せい剤を搬入する行為はまさに輸入罪の構成要件該当行為と言わざるを得ない。建物そのものに入らなくても、塀の外から塀を乗り越えて敷地に入ろうとする行為は住居侵入行為であるのと同様、領域外から領域内に搬入しようとする行為は輸入行為と解すべきである。領海内で覚せい剤を製造すれば製造罪が成立するのと比較し、領海内に搬入されたのみでは輸入行為にも当たらないというのは不均衡であると思われる。たしかに、領海内に搬入されただけでは流通・拡散による濫用の危険は切迫していないが、確実性は認められる。したがって、これを輸入未遂罪と構成することに支障はないと思われる。

そして、このような理解は、輸入未遂罪には国外犯処罰規定があることと調和できる。なぜなら、輸入未遂罪に国外犯処罰規定が存在するということは、同罪の実行の着手が領海外にあることが前提とされているからである。また、陸揚げ以前の段階で輸入未遂罪の成立を認めても、刑法43条の適用によりその刑は任意的減軽の対象となり一般的には既遂罪ほど重く処罰されないので不合理ではないと思われる。ちなみに、関税法上の禁制品輸入未遂罪、無許可輸入未遂罪の場合は刑法43条の適用はなく、法定刑は既遂の場合と同一になっているが、これは、関税法の場合、輸入の定義規定があり、引取り行為が輸入行為とされているので、引取りに近い陸揚げが輸入行為の開始、すなわち実行の着手と解され、陸揚げ段階までくれば流通・拡散による濫用の危険は切迫していると見ることができ、既遂と同一の法定刑で処罰してよいと理解できるからである。

 

 

 

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