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第二は、領土搬入説で、我が国の領土に搬入したこと、つまり、船舶から陸揚げし、又は航空機から取りおろすことをもって既遂と解する見解で通説とされている(29)。その論拠としては、覚せい剤取締法が覚せい剤の輸入を禁止する趣旨が覚せい剤の濫用や流通・拡散による危険の防止にあり、そのような危険が顕在化・明確化するのは覚せい剤が我が国の領土に搬入されたときであり、領土内に搬入される場合と領海・領空を通過する場合では質的な差があるとする点にある。また、覚せい剤取締法に平成3年の法改正までは輸入未遂罪の国外犯処罰規定がなかったことは、未遂罪は国内犯として成立することを前提にしており、領土搬入説に有利な事情と理解されている。

第三は、通関線突破説で、引取り、通関線の突破を既遂とする見解で、具体的には、保税地域等を経由しないで搬入する場合は陸揚げ時だが、保税地域等を経由する場合は当該地域を経由して貨物を国内の自由流通の場に置いたときと主張する見解である(30)。この説は、覚せい剤の輸入を禁止する趣旨を覚せい剤が自由流通状態に置かれることを禁圧する点に求め、このような自由流通の危険が顕在化するのが税関の拘束を離れた時点であるとするものである。

第四は、個別化説で、本邦外から本邦領域内に物品を搬入し、かつ、もともと本邦内に存在していたのと同様の濫用の危険のある事実状態を作出させた時点を輸入の既遂時期とするもので、輸入の形態毎に既遂時期が異なることを正面から認める見解である。本説は、近時、検察関係の実務家を中心に極めて有力に主張されている(31)

このような学説の対立の中で、最高裁は、旅客機で我が国に覚せい剤を搬入し、税関空港を経由して持ち込もうとし、関税法上の無許可輸入罪と覚せい剤取締法上の輸入罪との罪数関係が問題となった事案において、「無許可輸入罪の既遂時期は、覚せい剤を携帯して通関線を突破した時であると解されるが、覚せい剤輸入罪は、これと異なり、覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取りおろすことによって既遂に達するものと解するのが相当である。」と判示し、覚せい剤輸入罪の既遂時期をこのように解する理由を「覚せい剤取締法は、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するため必要な取締を行うことを目的とするものであるところ(同法条参照)、右危害発生の危険性は、右陸揚げあるいは取りおろしによりすでに生じて」いると説明している(32)

 

 

 

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