(2) 東京地裁判決の内容
これに対し、東京地裁は、土佐清水港で陸揚げしようとした点について関税法上の禁制品輸入未遂罪を、海中投棄に至るまでの間、漁船玉丸に覚せい剤を積載して航行していた点については営利目的覚せい剤所持罪の成立を検察官の主張通り認めたが、公海上において外国船と洋上取引して入手した覚せい剤を漁船に積載し、本邦に向けて航行させた上、領海内に搬入した点については、営利目的覚せい剤輸入罪の成立を否定し、覚せい剤輸入予備罪(覚せい剤取締法41条の6)の成立を認めた。
判決は、「覚せい剤の濫用等による保健衛生上の危害発生は、輸入罪との関係では、陸揚げ又は取りおろしによって顕在化・具体化するとして不合理ではなく(覚せい剤を船舶から陸揚げし、又は航空機から取りおろし領土内に搬入した時点において、覚せい剤の濫用や流通・拡散等による害悪発生の危険性が具体的に顕在化・明確化し、覚せい輸入罪の保護法益に対する侵害の危険が現実に発生するといえよう。)、結局、覚せい剤の本邦への輸入とは、外国からきた覚せい剤を本邦領土内に陸揚げするなどして搬入することをいうと解するのが相当であり、船舶による輸入の場合、輸入の携帯、輸送手段の種類、薬物に対する物理的支配の有無、輸送手段に対する支配力の有無等を問わず、一義的に本邦領土内への陸揚げによって既遂に達すると解するのが明解であるとともに、妥当な解釈であると考えられる。」と判示して覚せい剤輸入罪の成立を否定した。また、判決は、「実行の着手時期については、覚せい剤を船舶内から本邦領土内へ陸揚げする行為を開始したとき又はそれに密着する行為を行い陸揚げの現実的危険性のある状態が生じたときに、実行に着手したと解するのが相当である。」と判示し、営利目的覚せい剤輸入未遂罪の成立をも否定し、結局、覚せい剤輸入予備罪の成立を肯定した。そして、Xに対して、前述の二つ罪を合わせて、懲役18年、罰金600万円、追徴金14億647万5547円を言い渡した。