(3) 公海
公海上であっても継続追跡権の行使の場合、および排他的経済水域及び大陸棚における海洋構築物の場合には、沿岸国の執行権は及ぶ。国連海洋法条約111条が「沿岸国の権限ある当局は、外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があるときは、当該外国船舶の追跡を行うことができる。」と規定しているのを受け、領海及び接続水域に関する法律5条は、「(当該職務の執行に関して接続水域から行われる国連海洋法条約第111条に定めるところによる追跡に係る職務の執行…)については、我が国の法令を適用する。」と規定し、接続水域からの継続追跡権の行使である限り公海上での執行が可能となっている。また、海洋法条約60条は、沿岸国に排他的経済水域における人工島、施設及び構築物に対して排他的管轄権を行使することを認め、同条約80条は、この権利を大陸棚における人工島、設備及び構築物に対しても認めている。これを受け、排他的経済水域及び大陸棚に関する法律3条2項は「前項に定めるもののほか、同項第1号の人工島、施設及び構築物については、国内にあるものとみなして、我が国の法令を適用する。」と規定しており、執行法・手続法はもとより実体法もこの規定により域外適用できることになる。
このような例外的な場合を除き、公海上の船舶は、公海自由の原則により、旗国の排他的な管轄権に服する(条約92条)。旗国以外の国は、領海外の外国船舶内で行われた行為について国内法を域外適用しこれを犯罪とすることはできるが、それに対する刑事管轄権の行使は旗国に留保される。しかし、このような旗国主義にも例外がある。条約110条によれば、海賊行為、奴隷取引、無許可放送、無国籍船や国旗の濫用の場合には、公海上の外国船舶に対して臨検を行うことができるとされている。ただ、臨検の権利は、当然に刑事裁判権(訴追の権利)の行使まで含む訳でなく、それが国際法上認められているのは海賊行為の場合のみであるとされている(10)。
ところで、海洋法条約は公海上の規制薬物の取締りに関して特別な規定を置いている。