条約33条1項が規定する二つの措置のうち、(b)の自国領域内で既に行われた「法令違反の処罰」のために拿捕や逮捕などの強制措置を行うことは異論はないが、同項(a)にいう「違反を防止すること」に必要な規制の内容については、周知のように、争いがある。領海外から接続水域に入域してきた外国船舶とその乗員に対して、国内法違反を根拠にして拿捕や逮捕が可能であるかについて、いわゆる執行管轄権説に立てば、沿岸国は接続水域の中で、国内法令を制定、適用することはできず、処罰の措置をとることはできないとされる(6)。これによれば、接続水域内で規制薬物の積替えを行っている外国船舶等に対しては、国外犯の処罰規定のある規制薬物の密輸入予備罪を根拠に拿捕や逮捕を行うことはできず、密輸が行われることを防止するための立入検査(海上保安庁法17条)、警告及び接続水域外への退去強制などの予防的警察措置(庁法18条)を行うことが可能であるに止まることになる。
これに対して、接続水域制度は、密輸によって害される沿岸国領域の利益を保護するためには、領海外の公海上にまで沿岸国の権能を及ぼすことを認めたものであり、接続水域で行使する管轄権は執行管轄権に限定されず、立法管轄権にも及ぶとする限定的立法管轄権説によれば、「領域における法益を侵害し又はその危険を生じさせる場合」に限り、拿捕や逮捕は可能であり、このような解釈も条約に違反するものではないとされる(7)。このような考え方に立てば、規制薬物の密輸入予備罪には国外犯処罰規定があるので、これを根拠に処罰のための措置をとることが可能となる。これに対し、銃器については、通関、財政、出入国管理、衛生には直ちに含まれないから、密輸入予備罪による取締りは国際法上認められないとされている(8)。また、規制薬物の接続水域での所持は、接続水域内で危険が生じているに過ぎず、国内の法益に危険が生じているわけではないので、少なくとも接続水域制度の枠内で処罰することはできないとされている(9)。