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そのような中で、最近、瀬取り方式の密輸事件に関する注目すべき判決が東京地裁で出された。この判決は、公海上での積替えによる密輸の事案において密輸入罪が成立するか否かという実体法の問題が争点となっている。

そこで、本稿では、まず、洋上での積替えという形態をとる密輸事犯に対する刑事法の諸問題を一瞥した後、東京地裁判決について若干の検討を加えたいと思う。

 

2. 我が国における密輸入規制の法体系

薬物・銃器の密輸入対策としては、関係関連法において、犯罪構成要件を規定し罰則を強化するほか、我が国の領海外での密輸防止対策のために国外犯処罰規定を整備する必要がある。密輸入を規制する現行法の規定は概略以下のとおりである。

まず、薬物関係法規では、いわゆる薬物四法、すなわち、「麻薬及び向精神薬取締法」(昭和28年3月17日法律14号)、「大麻取締法」(昭和23年7月10日法律124号)、「覚せい剤取締法」(昭和26年6月30日法律252号)、「あへん法」(昭和29年4月22日法律71号)において、それぞれ、規制薬物の輸入罪(麻64条、65条、覚41条、大24条1項、あ51条)、その未遂罪(麻64条3項、65条3項、覚41条3項、大24条3項、あ51条3項)、予備罪(麻67条、覚41条の6、大24条の4、あ53条)、所持罪(麻64条の2、66条、覚41条の2、大24条3項、あ51条3項)、譲渡罪・譲受罪(麻64条の2、覚41条の2、大24条の2、あ52条)、その未遂罪(麻64条の2第3項、覚41条の2第3項、大24条の2第3項、あ52条3項)が設けられ、さらに、平成3年(1991年)の改正では、これらの罪の国外犯処罰規定が設けられている(麻69条の6、覚41条の12、大24条の8、あ53条の4)。

例えば、覚せい剤について見ると、覚せい剤輸入罪は10年以下の懲役(覚41条1項)とされ、営利目的覚せい剤輸入罪になると、法定刑が非常に重くなり、無期又は3年以上の懲役となり、さらに1000万円以下の罰金が併科される場合がある(覚41条2項)。そして、覚せい剤輸入未遂罪が設けられ、刑は輸入罪の法定刑を減軽することができるとされる(覚41条3項)。

 

 

 

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