こうした実体法と手続法によって、接続水域での沿岸国の権限については、現行国内法の体制は、接続水域固有の法益は沿岸国に認める見解には与しないが、領域内の法益の危険を根拠に国内実体法を適用し執行管轄を及ぼすことを認める体制になっていると理解される。接続水域に沿岸国固有の立法管轄を認める見解でもこの点は説明できなくもないが、この見解では、わが国の接続水域が相対国の接続水域と重なって競合するときに、執行を競合させるという方法が選択できないから適当ではない(50)。ここでの見解に立てば、等距離中間線という解決策が唯一の方法でもなく、また、相対国との協議を経なくても理論的には執行ができる。追跡権の行使は外国の領海内までは及ばないことを定める海洋法条約第111条第3項の反対解釈として、外国の接続水域では追跡権を行使することが可能であることとの関係でも整合的である。
(イ) 議定書への対応
4の(3)で述べた、議定書の認める新たな取締方法をわが国が実施しようとする場合、次のようなことが問題となる。議定書の定める領海外での執行は、公海について海域の限定がなく、接続水域外にも及んでいる。この点は、国連麻薬新条約に基づく薬物密輸入の取締りと同様である。そこで、この接続水域外の公海で追跡以外の一般的な取締りを実施しようとすれば、新たな立法が必要かどうかが争点になる。
海上保安庁法や刑事訴訟法の適用範囲の問題について、無限定説に立てば、立法は不要となるが、適切とは思われない。立法を必要とするの結論を採ることが、領海及び接続水域に関する法律や排他的経済水域に関する法律に当該海域へ執行権限を拡張する規定を置いた立法趣旨にも合致するからである。また、隣国と狭い海で接し権限行使に伴う緊張関係に注意を払う必要のあるわが国では、そのような実施の判断には国民の意思の確認、すなわち国会の判断が必要と考えるのが適当だからである。そのことは、手続法の域外適用に関しては、管轄権説に立つことが妥当であることを示している(51)。