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(ウ) 執行の必要性

領海・接続水域を超える執行が必要かどうかの政策決定自体も問題となる。この点に関しては、もし5の(1)の(ア)で述べたわが国への密航の態様のうち、(b)の、公海での瀬取りと言われる手口による密航が多く、瀬取り現場での検挙が現実的に可能であるなら、執行を具体的に考える必要がある。しかし、その検挙が現在の監視体制でどのくらい現実的であるかは、費用対効果の関係でおそらく疑問である。

また、平成12年(2000年)になって、急に密航が減少してきているとされているが、その理由は、わが国との協議に基づく中国の取締りの強化にあると考えられている(52)。このことは、領海外でのわが国による直接の取締りよりも、密出港国との国際協力による事前防止といった方法の実行の方が、より効果的で重要であることを示している。

すると、取締海域の拡大が直ちに必要なわけではない。わが国における密航取締りについての現状を見るかぎり、基本的にはこれまでの体制で足りていると、考えることもできる。したがって、この海域で取締りを実行しようとしたときに解決すべき問題となると考えられる、わが国の接続水域とは重ならない外国の接続水域内での執行から生じる問題などは、必要が生じたときに検討すればよいであろう。

(エ) 生じうる若干の問題

現行の取締りの体制でも生じる問題の一つは、先に述べた(b)の、わが国の領海・接続水域外の近海でわが国の漁船に乗り換えてくる形態で行なわれた密入国に関して、漁船を領海・接続水域で検挙したことを根拠として、公海上の外国船舶に対して執行できるかである。この点は、領海・接続水域内で検挙した漁船と一団となって作業する母船であることの確認ができれば、海洋法条約第111条第4項の適用が可能であろう(53)。ただ、第1項の中断の要件がかぶって紛争を生じる場合も考えうるから、そのような場合まで含めて取締りの必要があれば、議定書の定める手続を執行するための国内法、外国との協定の整備を新たに行なう必要が生じる。

 

 

 

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