(イ) 普遍主義
普遍主義に関しては、国際テロリズム関連の条約で一般に採用されていた、引き渡すか訴追か、という義務づけは採用されなかった。それは、シー・ジャックなどでは国際海洋航行の利益などの国際的な利益の侵害がともかく想定され、それを出発点とすることができたのに対して、議定書の定める人を密入国させる行為で侵害されるのは、結局密入国される国の国内法益にとどまるからであると理解できる。議定書が前提とする本体条約に定める罪も、そのような性質のものであることを示していよう。条約の名称でも、Internationalという用語は用いられず、Transnational Organized Crimeという概念で構成されている。
法益に着目して、国際刑事責任成立の根拠や管轄権設定の根拠を考え、それに基づいて国際法と国内法のあり方を整合的に構築していこうとする立場(40)からは、国際法形成が基本的に適切な方向を示していると評価できる(41)。
(3) 海路で人を密入国させる行為と船舶に対する執行
附属議定書第2章は、海路で人を密入国させる行為に関与していると疑われる船舶に対する執行に関して、第7条から第9条で、次のように定めた(42)。
第7条(協力)
締約国は、海洋に関する国際法にしたがって、海路で人を密入国させる行為を防止するため、可能な最大限の協力を行なう。
第8条(海路で人を密入国させる行為に対する措置)
1 締約国は、自国の旗を掲げもしくは自国の登録を表示する船舶、国籍のない船舶、または自国以外の国の旗を掲げもしくは旗を示すことを拒否しているが実際には自国の船籍を有する船舶が、海路で人を密入国させる行為に関与していると疑うに足りる合理的根拠を有するときは、人を密入国させる行為のためにこれらの船舶が用いられることを防止するにあたり、他の締約国の援助を要請することができる。要請を受けた締約国は、その手段の可能な範囲で援助を行なう。