それは本体条約の規定に依るとの趣旨と、理解するのが素直なようにも見える。議定書第1条が、第2項で、本体条約の規定は別の定めのない限りこの議定書にも必要な修正を加えた上で(36)準用される旨規定し、第3項で、議定書第6条に従って定められる罪は条約に従って定められる罪とみなす旨規定しているからである(37)。
しかし、そのような理解に疑問が残らないではない。本体条約の第15条の定める管轄の原理としては、管轄権の設定を義務づけるものとして、第1項(a)号に属地主義、(b)号に旗国主義が、管轄権設定の権能を与えるものとして、第2項(a)号に国民保護主義(消極的属人主義)、(b)号に属人主義(積極的属人主義)、(c)号に国家保護主義(客観的属地主義)が、それぞれ規定されている。また、属人主義(積極的属人主義)については更に第3項で、自国民であることを唯一の根拠として被疑者を引き渡さない場合には、管轄権設定を義務づけ(代理処罰主義)、第4項では所在地国に、普遍主義に基づく管轄権の設定の権能が賦与されている。ただ、国家保護主義(客観的属地主義)の適用される罪は、本体条約第5条の国際組織犯罪への参加、第6条のマネー・ロンダリングに限定され、その他も、これらの罪のほか、第8条の贈賄罪、第23条の司法作用を妨害する罪が列挙されている(38)。
従って、議定書第1条第2項が本体条約の規定を必要な修正を加えた上で準用するといっても、議定書の定める人を密入国させる罪が、管轄権の設定を義務づけられるのは、属地主義、旗国主義、代理処罰主義のどの範囲なのか、つまり第1項の対象とする罪と同様なのか第3項の対象とする罪と同様なのかは明白ではない(39)。権能を付与されるのも、国民保護主義、属人主義、国家保護主義、普遍主義のどの範囲なのかも自明なわけではない。
その意味で、国内法の眼から見ると、条約作成のあり方として疑問がないわけではない。ただ、本体条約は、第35条で、留保や解釈宣言の余地を残しているから、議定書第1条の趣旨が、できる限り条約を効果的に運用できるように解釈され、義務づけの範囲を広くしたとしても、ここでの問題は回避できる、ということになろう。