他方、議定書第6条第4項では、締約国は議定書より広い定め方をすることを否定していないので、構成要件上、それを含むよう各締約国が規定することは妨げられないと、理解される。附属議定書がその解釈は本体条約と適合するようになされるとしている第1条との関係でも、本体条約の第34条第2項が、犯罪組織に参加する罪を除いて、国内法化するにあたっては、犯罪が国境を超える性格をもつことや犯罪組織によって行われることに拘束されないとしていることが、ここでは準用されよう。
(ウ) 密航者の取扱い
議定書は、密航者自身に対しても、発展途上国の意見を反映して、一定の規定を盛り込んだ。まず第2条の目的に、輸送の対象となった密航者の権利の保護が謳われた(33)。そこにはIMOでの審議も反映したであろう。更に第5条では、人を密入国させる行為の客体となったことを理由に密航者をこの議定書に基づいて刑事訴追の対象としてはならない旨が、定められた(34)。これは、密航者自身は犯罪組織による密航者輸送ビジネスの被害者であるという側面を配慮したものである。
ここでは、従来密入国者を処罰してきた国内法との関係が問題となりうる。しかし、第5条は、この議定書によっては刑事訴追の対象とすることはできないこと、すなわち対向的な必要的共犯として犯罪組織に金品を与え密入国ビジネスを結果的に助長したことを理由に刑事訴追の対象と定めることはできないということを意味するのみで、密入国それ自体がそれぞれの国内法益を侵害したことを根拠に、各国が密入国者を処罰すること自体を禁止するものではないと理解される。
(2) 管轄権
(ア) 管轄権設定の範囲
草案審議の過程では、犯罪化を定めた条の次の条に、管轄に関する規定が置かれ、本体条約の管轄に関する基本原理と一致するように提案されていた(35)。しかし、最終的に確定した議定書では、この規定は削除された。