規制の対象となった、人を密入国させる行為は、犯罪組織に着目する点および外国から密入される点で、麻薬の密輸入と共通点がある。そこで、人を密入国させる行為もsmugglingと呼ばれ、その海上における規制のあり方も、1988年の国連麻薬新条約の規定のし方が基本的に踏襲された。
麻薬新条約を参考とすることは、IMOの規定の際にも念頭に置かれていたところであった。
(イ) 議定書採択までの経緯と総則規定
人を密入国させる行為の防止に関する議定書は、本体条約である国際組織犯罪防止条約、および、人特に女性と子供の不法取引の防止に関する議定書とともに、2000年12月にパレルモで採択された(27)。この条約の起源は、1994年12月のナポリ閣僚会議に遡るが、1995年からのリヨン・グループ会議、1996年のポーランドによる条約案提案を受けた国連総会による犯罪防止委員会への検討要請、1997年4月のパレルモでの非公式会議、5月の犯罪防止委員会条約問題作業部会、7月のアフリカ閣僚会議、12月の国連総会での専門家会議の設置決定、1998年2月のワルシャワでの専門家会議、3月のアジア閣僚会議、5月の犯罪防止委員会による条約案作成の決定、6月のバーミンガム・サミット、8月から11月までの3回にわたる条約案起草委員会の非公式予備会合、1999年1月から2000年10月までの11回にわたる条約案起草委員会の審議を経て、実現したものである(28)。
附属議定書では、第1章総則規定の第1条で、本体条約との関係、第2条で、附属議定書の目的、第3条で、用語の定義、第4条で、適用範囲、第5条で、密航者自身の刑事責任の有無を規定した後、第6条で、犯罪化されるべき行為が規定された。その上で、7条から第9条までの第2章で、海路で人を密入国させる行為についての手続的規定が定められた。