(d) 乗船者への保障
また、乗船者に対しては安全と人道的な扱いを保障しなければならず、難民の地位に関する1951年条約および1967年議定書に適合するものでなくてはならない。
そして、この暫定措置を適用しない場合であっても、各国は、国連海洋法条約第98条やSOLAS条約に従って、生命の危険に曝されている者を援助する義務を負い、国際人権法を損ねることは許されないことが、注意されなければならない(25)。
以上のIMOの規定は、国連の国際組織犯罪条約起草委員会の作業を補完する目的も有していたが、事実その後、起草委員会に送付され、草案に可能な限り盛り込まれた(26)。
(2) 犯罪性
(ア) 海路で密入国させる行為と条約上の位置
国際組織犯罪条約起草委員会は、しかし、IMOがその性質上海上の安全に着目するのとは異なり、移民輸送が犯罪組織によって密航をさせる行為として行なわれ、密航者からの経済的搾取となっているという犯罪性に着目するため、規定の力点は自ずから異なるものとなる。規制の対象は、密航者輸送に伴う安全でない航行ではなく、端的に、密航者を輸送する行為すなわち人を密入国させる行為となる。その結果、IMOの暫定措置を定めた規定に置かれていた安全性に関する文言は削除された。
また、IMOがその性質上海洋を規制範囲とするのに対して、人を密入国させる行為は海上で行なわれるものに限られない。そこでこれらを含めた規制の中で、海洋に固有の規制はその旨の規定を置く形で定められた。
更には、犯罪組織によって行なわれる国際的な規制の必要な行為は、人を密入国させる行為に限られない。従来から規制の力点は、犯罪から得た収益の剥奪とその手法の一つであるマネー・ロンダリング罪に置かれてきた。犯罪組織への参加を犯罪とすることも最近付け加えられるようになってきたが、それらを効果的に防止するための共助を含めた国際協力の枠組作りが、従来からの条約づくりにおける主要な関心であった。そこで、人を密入国させる行為の規制は、本体条約である国際組織犯罪条約の附属議定書の中で、規定されることになった。