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それは、この類型の密航が明白に増加しているだけでなく、乗組員の数を上回る密航者が乗船している場合には乗組員に潜在的な危険が生じるとともに、密航者を下船させて適切な機関の管理のもとに引き渡すことに時間がかかると、海運に潜在的な混乱が生じるばかりでなく、密航者に相当の危険も生じるからである(6)。その背景にある事情としては、密航に関する国際条約である1957年のブリュッセル条約が現在に至るまで発効しておらず、また発効の見込みも立たない現状であるため、密航者の取扱いに関する合意された国際的な手続きがないことが挙げられる。この事情のため、関係各国の国内法がまちまちなものとなり、そのことから、船長、船会社、船主、船舶運航者が、密航者を下船させ、適切な関係当局に引き渡すことに、相当の困難が生じている。

 

(2) International Maritime Organizationガイドライン

IMOはこのことを認識して、まず、対象となるこの類型の密航者を、船主、船長、その他権限のある者の同意なく、船内または積荷内に隠れ、出港後船内で発見され、船長によって関係当局に密航者と報告された者、と定義する(7)。その上で、船長、船主若しくは船舶運航者、密航が発見された後の最初の寄港予定国(下船国)、密航者の乗船国、密航者の国籍国若しくは居住国、船舶の旗国、帰還若しくは送還通過国について手続的な指針を定める(8)。その基本目的は、密航者を人道的で納得できる方法で送還することであり(9)、船上で殺されあるいは海上に投げ落とされることや(10)、船上にいつまでも抑留され続けられることが起きないように(11)、関係者、関係機関、関係各国が密接に協力する責任が規定されている。密航者の国籍国若しくは居住国は、密航者の帰還を許可しなければならず、密航者の乗船国も最終的な処分としてではないが当面は密航者の帰還を受け容れなければならない旨、定められている(12)

しかし、このガイドラインにも拘らず、各国からの報告の中には、密航者が1日以内に下船しなかった44例で船内に留め置かれた平均日数は29日、最長319日という報告もある(13)。そのため、ガイドラインの内容を条約化して、義務づけることも検討されている(14)

 

 

 

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