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(2) 国際的対応

そこで、最近では、国際社会は、この二つを明確に区別して、国際的な対処のあり方を考えようとしている。まず、船舶の船主、船長などが知らないうちに、密航者が密かに潜り込んでいる、いわば伝統的な単純な密航は、stowawayと呼んで、密航者自身、密航行為自体に着目する。密航行為自体の規制は各国国内法次第であることを前提とした上で、国際的には、海洋航行の安全について規律してきた国際海事機構IMOが中心となって、密航者の安全と国籍国・乗船国への送還を含めて、事案を円滑かつ安全に解決するという視点から、国際的な枠組を形成しようとする。

これに対して、船舶の船主、船長などが密航を知っている場合は、密航行為、密航者ではなく、むしろ密航をさせる行為、密航をさせている主体に着目して、その行為を、smuggling of migrantsと呼んで、国際刑事規制の対象としようとしている。それは、密航をさせる行為が犯罪組織によって行なわれる場合が増大し、密航の規模と密航に関連する資金や安全に深刻な影響を与えていると認識されているためである。犯罪組織が人を密入国させる行為から得る利益は、1年に50憶ドルから70億ドルと推計されている(4)。ここでは、密航者はむしろ被害者として把握されようとしている。

密航は、従来各国の国内法秩序を侵害するもので、各国がそれぞれその判断でどのように規制するかを決定すればよいものと理解されてきた。それが国際杜会において変化していることに注意することが必要である。

そこで、この国際的動向がわが国の海上における取締りに対して、どのような影響をもたらすのかを検討することが必要となる。以下では、この動向の内容をやや具体的に確認しつつ、わが国にどのような問題が生じうるのか、これにどのように対処しうるのか、またすべきなのかについて、若干の検討を加えることとする。

 

2 単純な密航に対する国際的動向

(1) 国際協力の必要性

船主、船長などが密航を知らないで運航している間に行なわれる、いわば伝統的な単純な密航に関しては、IMOが、密航事案の円滑な処理と密航者の安全の確保とを視点として、国際的なガイドラインを定め、各国が協力してこれを履行することによって、円滑な解決を図ろうとしている(5)

 

 

 

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