密航規制の国際的動向と海上警備
横浜国立大学教授 田中利幸
1 海上交通を利用した密航の類型とその国際的対応の変化
(1) 密航の類型
発展途上国と先進国との経済格差を反映して、発展途上国から先進国への密航が世界的に増加しており、その傾向は今後も続くと予想されている(1)。
わが国においても、海上保安庁は、平成8年(1996年)に481人、9年(1997年)に605人、10年(1998年)に331人、11年(1999年)に387人を検挙している(2)。この数のほか、密航しようとしている者をわが国の領海外で発見し、相手国に引き継いだ数が、平成8年に273人、9年に470人、10年に313人、11年には571人にのぼったと報告されている(3)。わが国への密航者のほぼ90%は中国人である。
密航にはいろいろな類型がある。経路だけから見ても、陸路、空路、海路がある。わが国への主要な経路である海上における密航の場合、船舶を利用することが不可欠なため、その態様は大きく二つに分類しうる。ひとつは、船舶の船主、船長、その他責任のある者が、密航者の存在を知らずに船舶を運航している場合であり、もうひとつは、密航者の存在を知って、密航させている場合である。
出入国管理によって実現される利益を、密入国によって直接侵害される法益の性質にだけ着目して狭く捉えると、船主等が密航を知っていてもいなくても、この二つの類型の出入国管理に占める位置は、共通である。しかし、両者では、密航者の数の違いに応じて侵害される法益の程度が異なるだけではなく、密入国によってもたらされる種々の利益が誰に生じることになるのかや、検挙の蓋然性など、大きな違いがある。