第三国漁船の取締りについては、協定に明文の規定がないため、執行管轄権に関する消極的あるいは積極的な抵触が生じるおそれがある。執行を消極的に行って、暫定水域における第三国漁船の取締りを行わないのは、実効的な資源管理を目的とする水域設定の趣旨から見て適切でないし、協定の規定振りからもそのような意思を両国が有していたとは考えられない。
暫定水域全体に対して、無許可の第三国船の取締りを締約国双方が行うという方法に関しては、コロンビア・ジャマイカ間の共同制度水域、ノルウェー・ソ連間のグレー・ゾーン等に先例を見ることができる。グレー・ゾーン協定に見られるように、両国が当該水域全体について、無許可の第三国漁船の取締りを行う権限を相互に認めている場合には、協定の第三国に対する効果の問題はあるものの、第三国漁船に対する執行を自国水域を含めて当該水域全体に関して、相互に認めることにより、協定上の権限として、主張が重複している水域より相手国側の水域での権限行使も可能である。しかし、新日韓、日中漁業協定では、そのような規定はないため、双方の主張が重複している水域より相手国側の水域の第三国漁船に対して執行を行うことは、当該第三国船に対して、根拠のない執行を行うおそれがあり、さらに、第三国漁船に対する相手国の管轄権の侵害となる可能性もある。
両当事国の主張する最大限の水域にまで第三国漁船に対して執行管轄権を行使するのは、事実上重畳的な権限行使が行われる水域が生じることにはなるが、資源管理を実効的に行うという観点からも、両国の国内法の規定から見ても、実際的な解決であろう。
第三国漁船の取締りに関しては、条約当事国でない近隣諸国の漁船が操業を行う可能性があるため、協定に明文の規定がない以上、両当事国間の間で漁業共同委員会を通じた早急な交渉、取締り方法の決定が望まれる。また、国連海洋法条約の規定から見れば、漁獲可能量の余剰分の漁獲を第三国に認める必要がある。暫定水域においては、余剰分が生じない可能性が大きいが、グレー・ゾーン協定での例のように、余剰分が生じていなくとも、漁獲割り当ての交換等によって第三国船の入域を認める必要が生じることも考えられるため、第三国漁船の合法的な入域を視野に入れた制度を確立する必要もあろう。