ノルウェーは、第二次世界大戦以前から、スヴァールバルド諸島の領有権問題があったために、ソ連と共同管轄を行うことは同諸島におけるノルウェーの主権を弱める危険性があるとして警戒しており、さらに戦後は政治的に西側陣営から離れることを恐れてソ連との距離をおく政策をとり続けていた。(18)
このように、グレー・ゾーン協定では、両国が設置した漁業共同委員会よって、グレー・ゾーン内での共通の漁業管理方式が決定されることになっており、委員会が定める管理方式は、ICESおよびNEAFCが決定した漁獲許容量および規制方式を採用するものとされている。協定第7条においては、自国船についても両当事国がグレー・ゾーン内で、一方的に異なる規制措置をとることが禁じられているため、従来のように、両国の主張が重複する水域で、委員会の勧告がまとまらない場合に、両国がそれぞれ別個の規制を行うことになる可能性はなくなったといえる。
両当事国間で漁業共同委員会を設置して共通の資源管理を行う点で共同開発的な性質を持っているが、執行管轄権については、各締約国が自国船あるいは自国が免許を発給した第三国船についてのみ執行を行うことができるとされており、相手国船および相手国が操業許可を与えた第三国船に対しては他方当事国は管轄権を行使することができないとする執行方法をとって、共同管轄が否定されている。無免許船については両当事国が取り締まりを行うことができるとされているため、第三国船の取締りの問題も両国間では解決されたといえる。
上述のように、グレー・ゾーンにはそれぞれの主張が重複していない水域も含まれていることから、そのような水域においては、無免許の第三国船に対して、本来その水域に対して権利を有していない国が管轄権をおよぼすことになる、という問題がある。免許を与えた第三国船に関しては、条約上の規制を承認したうえで入域したものとみなすことができるが、無免許船の場合、条約とは無関係であるため、本来管轄権を有していない国の執行権行使を受けいれなければならない義務は当然には発生しない。この点に関して、両当事国は、グレー・ゾーンが一定の協定上の規定が適用される水域であるため、各々が管轄権をおよぼすことができる、という立場をとっているが、(19)第三国に対して対抗力があるかどうかは疑問である。