この問題に関しては、当初、ノルウェーは、ソ連が同様の態度をとる場合は、ソ連との係争水域において管轄権の行使を差し控えることを示唆し、ソ連も基本的に同意していた。しかし、当該水域では従来から第三国船が操業を行っており、第三国船に対する取締りをどのようにするかという問題もあった。第三国船の操業に関しては、両国は漁獲能力が高いため、実質的に漁獲可能量の余剰分は生じていなかったが、ノルウェーは排他的経済水域設定当初からEC諸国等と漁獲割り当て交換による操業を認めており、さらにポーランド、東ドイツ、ポルトガル、スペイン等にも伝統的漁業実績に基づく入域を認めていた。そのような事情で両国は第三国船の取締りを含めて、主張の重複している水域の一部で共通の規制枠組みを定める漁業協定が必要であった。(14)
b. 協定内容
グレー・ゾーン協定は、漁業に限定した、暫定的で、実務的な取り決めであるとされている。両国の主張が重複する水域での最終的な境界画定までの間、両国がグレー・ゾーンと呼ばれる共同規制水域における漁業管理のための規則を樹立し、両国および第三国漁船による漁業を管理することが目的とされている。両国が最終的な境界画定を行う意思を有していること、および暫定協定がそれに対して影響を与えないことが明記されている。(15)
協定の適用範囲は、ノルウェー、ソ連それぞれの本土から200カイリ内の水域とされ、両国間で主張の重複がある水域でも、スヴァールバルド諸島とフランツ・ヨセフ・ランド諸島との間の水域には適用されない。協定の対象となる両国の本土から200カイリ内の水域のうちで、共同規制が実施されるグレー・ゾーンの範囲は、両国の主張が重複する水域、すなわち、ノルウェーの主張する等距離中間線とソ連の主張するセクター線との間の水域の範囲と完全に一致するものではない。主張が重複していない水域でもグレー・ゾーンに含まれる部分がある一方で、主張が重複する水域のうちでどちらか一方のみに帰属するとされている水域もある。
グレー・ゾーン約67,000km2のうち、両国の水域が重複している水域は41,500km2であり、非係争水域のうちノルウェー側23,000km2、ソ連側3,000km2がグレー・ゾーンに含まれている。