また、附属書I第1項で、両国が管轄権行使を差し控えているのは、それぞれ他方締約国の国民及び漁船に対してのみであり、第三国漁船に対する権限を放棄していることは考えられない。さらに、附属書IIの第1項、第2項で暫定水域より自国側の水域を排他的経済水域とみなすとしているのは、相手国国民及び漁船についての操業条件及び操業許可に関する協定本文第2〜6条の規定の適用に関してであるから、第三国漁船に漁業に関する主権的権利を放棄しているとはいえない。
以上のように、新日韓漁業協定が第三国漁船の取締りに関しての規定を設けていないことで、消極的あるいは積極的に管轄権行使に関する抵触が生じる可能性がある。
3. 新日中漁業協定
新日中漁業協定も、日韓漁業協定と同様に、沿岸国管轄による保存・管理措置を行う水域と、両締約国が自国民及び漁船に管轄権を行使して相手国民及び漁船に対して管轄権行使を行わない水域とに区分した制度となっている。協定水域は両国の排他的経済水域(1条)であるが、第6条で定められる、領有権争いのある尖閣諸島周辺の北緯27度以南の東シナ海の協定水域および東シナ海より南の東経125度30分以西の水域と、第7条に定められる暫定措置水域とでは適用が除外されている。
適用が除外される水域以外の水域では、双方の漁船が相手国水域で相互に漁獲を行うことを許され、操業は沿岸国の国内法令にもとづいて行うものとされている。(2〜3条)拿捕または抑留を行う際の釈放やとられた措置についての本国への通報義務も日韓協定と同様に規定されている。(5条)
第7条に規定される暫定措置水域では、日中漁業共同委員会の決定に従った保存・管理措置が両国の国内法に従ってとられ、相手国民および漁船に対しては取締りその他の措置をとらないものとされている。
さらに、日中新協定発効前の両国間の操業条件に関する協議の結果、暫定措置水域の北側に日中両国の漁船が各々相手国の許可証を取得せずに操業できる中間水域が設定された。