暫定水域における第三国漁船に対する両国の権限行使範囲としては次のようなものが考えられる。
まず第1に、暫定水域を漁業に関する一種のコンドミニアムと見て、暫定水域全体に対して両国が執行権を行使するという方法。第2に、第三国漁船に対しては、両国の排他的経済水域が許される最大限まで拡大できるものと見て、暫定水域内の一部で、両国の管轄権が重複して行使される水域が生じるという場合。第3に、暫定水域においては両国ともが第三国漁船に権限を行使しないというものである。
第1の場合、コンドミニアムに関しては、従来、条約によって植民地の統治を共同で行ったり、2以上の国の領域によって囲まれている内陸湖等について共同で取締りを行った例がある。(3)漁業に関するコンドミニアム類似の管轄権行使は、後述の諸外国の事例に見られるように、まったく例のないことではない。しかし、両国が暫定水域において第三国漁船に対して共同の執行権行使を行うという意思は、協定の規定上からは推定できない。
第2の場合に関して、国内法上の排他的経済水域の範囲に関する規定から見た場合は、両国とも排他的経済水域の範囲を対向国との間では中間線までとしている。(4)しかし、竹島の領有権について争いがあり、中間線起算の基線の取り方に相違がある以上、それぞれが管轄権を主張する水域には重複が生じている。暫定水域は、その重複の問題を両国間の漁業関係のみに限って解決するために設けられたものであるが、第三国漁船に対する権限行使に関しては、同水域の設定とは別に、事実上、管轄権の重複水域として両国が重畳的に管轄権を行使する水域が生じるという考え方が可能であろう。
第3の場合、両国とも国内法では、条約に別段の定めがあるときは、その定めによる旨の規定がある。(5)上述のように、協定附属書IIでは、暫定水域よりそれぞれ自国側の水域を排他的経済水域とみなすとされているために、両国が、暫定水域においては、相手国漁船のみならず第三国漁船に対しても、排他的経済水域としての管轄権行使を行わないとする見方もできる。しかし、積極的な資源管理の必要性がある同水域で、自国船のみに委員会の決定した保存・管理措置を適用して、第三国漁船に適用しないのは、同水域を公海と同様の地位におくこととなり不都合であり、海洋生物資源の維持が過度の開発によって脅かされないようにするために協力する、とする附属書Iに規定された暫定水域の設置目的からも妥当でない。