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協定では、委員会の協議事項として、「操業の秩序の維持に関する事項」があげられてはいるが、委員会に執行権行使の権限は与えられていない。また、両国共同での執行も規定されていないため、両国間で執行権の分配は完全に旗国主義によらしめられているといえる。そのような場合に執行を実効的に行う方法としては、共同乗船、連携巡視といった取締り面での協力が不可欠となるが、韓国側は非常に消極的であると言われる。(1)韓国側による実効的な執行が確保されない場合に、協定上で可能なのは、漁業共同委員会で実効的な執行を求めることのみであるが、共同委員会の権限から見て、勧告が十分実施されない場合もあり得る。その場合、旧協定におけるような、公海同様の旗国管轄による制度が場所的範囲を狭めて残存するような運用になる可能性もある。

(イ) 暫定水域での第三国船に対する執行

暫定水域は、両国間にある竹島の領有権問題を棚上げにして、漁業に関する問題のみを当面解決することを意図して設定されたという側面と、両国漁船が歴史的に出漁してきているため漁場の分配についての合意が得にくい日本海中央部、および、日中韓3国の主張が重複し、漁業利益の調整も困難な東シナ海中央部の水域の境界画定を回避するための緩衝水域として性質を持つ。(2)そのため、立法管轄権、執行管轄権とも、両締約国は、相手国漁船に対して、この水域で権限行使を差し控えて、共同委員会の勧告、決定を国内法に反映させ、両国間では旗国主義による取締りにとどめるという、消極的な立場をとることで、暫定的な保存・管理措置を行おうとしている。ところが、このような消極的な措置をとることで、暫定的にせよ、この水域について排他的経済水域の境界画定を行わなかったために、協定で明示的に定められた以外の事項について、双方の管轄権のおよぶ範囲が曖昧になってしまったという結果となっている。この問題は、協定が規定していない漁業以外の事項についてはもちろん、漁業についても、第三国漁船の取締りについて生じることになる。

協定には第三国漁船の取締り権限の分配に関する明確な規定はない。そのため、暫定水域について、第三国漁船の参入を許すか否か、また、第三国漁船への執行権限をどの範囲で両国が行使するかについて、協定の規定からは明らかでない。

 

 

 

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