このように、協定上、両国の排他的経済水域とみなされる水域においても、暫定水域においても、委員会の協議の結果は、両締約国の国内法に反映されるものとされているが、委員会の決定がそのままのかたちで規則化されることはない。さらに、第12条6項では、委員会の勧告決定は両国の合意によって行うものとされているため、合意が得られない場合はそれぞれが別の基準によって保存管理措置を実施する可能性もある。
(4) 執行に関する問題点
(ア) 締約国間における執行
新日韓漁業協定は、暫定水域を除いては、漁業暫定線および暫定水域より相手国側の水域で漁業に関する主権的権利を行使しないことを約束している点で、漁業に関する水域の境界画定協定としての性質を持っている。また、その水域での相手国国民および漁船の入漁条件等についての規定を設けている点で、漁業協定としての性質を持っているといえる。その点で、協定上両国の排他的経済水域とみなされる水域内では、執行に関する事項を含めて、漁業に関する沿岸国の排他的管轄権が明確に認められている。特に、他方締約国水域内での自国船に対する取締りに関して、明示的に執行を禁止する規定がある(5条2項)点からも、同水域内で沿岸国は、相手国船を含めた外国漁船に対して、国連海洋法条約が許容する限度での沿岸国の執行権を行使することが可能であろう。
暫定水域における執行に関しては、上述のように、他方締約国国民または漁船が違反を行っていることを発見した場合には、その事実および関連状況を他方締約国に通報できるのみであり、他方締約国国民または漁船に執行を行うことはできない。新協定署名時に両国は「協定の規定に反する操業が行われた場合の措置に関する書簡」を交わして、自国船による違反操業が行われた際には、自国の関係法令に従って厳正な措置をとることを、言明しているが、これは協定上に規定された義務とはいえない。