前述したように、わが国は国内法により担保金等の提供による早期釈放制度を採用している。サイガ号で問題となったEEZ内の漁船へのバンカリングについては、海洋法条約第62条4項に明示に列挙されていないにもかかわらず、「漁業主権法」で漁業等付随行為に分類し、農林水産大臣の許可にかからしめる法体制をとっている。わが国の場合、拿捕に際しては起訴前の早期釈放を基本としているので、わが国が拿捕した船舶に関して、ITLOSに即時釈放がなされないとして当該船舶の旗国より訴えられる可能性はかなり低いが、担保金の金額の合理性をめぐって、同裁判所に訴えられる可能性がまったくないとはいえない状況である。かかる状況において、山本裁判官の指摘にあるように、わが国が関係国内法令の適用によって外国船舶を拿捕する場合には、「その法的根拠や立証責任が国際裁判所により審査される事態も想定(94)」されるわけで、そのためにもこうしたITLOSの判例の動きについては十分注視していく必要があろう。
〔注〕
1 United Nations, Oceans and the Law of the Sea: Law of the Sea, Report of the Secretary-General, A/52/487 (20 October 1997), para. 34. 詳しくは、青木隆「国際海洋法裁判所の発足と最初の事件」『清和法学』第5巻1号114-118頁。
2 田畑茂二郎・高林秀雄編集代表『ベーシック条約集〔第2版〕』東信堂(2000年)654頁。
3 本事件は、カモコ号とほぼ類似の事件であり、セーシェル船籍のモンテ・コンフルコ号が、フランスのケルグレン諸島(フランス南方及び南極領土)の排他的経済水域で違法操業を行なったとして、フランスの監視艦フロレアル(カモコ号を拿捕した艦船でもある)に拿捕され、レユニオン諸島に連行された。サンデニ地方裁判所は5640万フランスフランの保証金の前納により船舶の釈放が可能であるとの命令を下した。そこで、セーシェルは、船舶とその船長の即時釈放を求めて、ITLOSに訴訟を提起した。裁判所は、全員一致で海洋法条約第292条の下での管轄権を認め、またフランスは同条約第73条2項を遵守していないとの訴えを受理した(但し、第73条3項と4項の不遵守の訴えは不受理)。そして、サンデニ地方裁判所が命じた5640万フランの保証金は合理的ではないとして、1800万フランの保証金の支払いを命じた。
Cf. ITLOS/Press/Notice 15, 6 December 2000, pp. 1-3 and ITLOS/Press 42, 18 December 2000, pp. 1-2.