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5 保証金の算定―「合理性」の判断基準

カモコ号事件で、裁判所は、フランスのその金額を否定し、保証金の額を800万フランと判示した。しかし、判決では、フランスの国内裁判所の保証金を「合理的でない」と判断する根拠や800万フランの算定の根拠など必ずしも十分に明確でないように思われる。第292条の目的が不合理な保釈金を科すことによって抑留を長引かすことを防ぐという点にこそあるとすれば、「保釈金」の「合理性」を争う紛争は今後とも裁判所に係属する可能性があり、その意味でも「合理的な保証金」の決定の際の根拠や指針をよりつまびらかにしておく必要があると思われる。アンダーソン裁判官は、その反対意見の中で、第292条は、たしかに船舶や乗組員の釈放という経済的・人道的価値を有しているが、同時に、EEZ内の生物資源の保存や国内漁業法令の実効的な執行というもう一つの価値を有しており、保釈金の「合理性」の問題を決定するにあたって、この後者の価値を盛り込むべきだと主張した(92)。その効果として、かなり高額の保釈金を科したフランスの立場を擁護する意見となっているが、本件において、それが完全に無視されているとも、また考慮されているとも判断する材料に乏しい。いずれにしても、保釈金を科す沿岸国の側にその金額の設定にあたってかなりの裁量権や評価の余地が認められていることは確かである。この問題は立証責任の配分を、原告に置くのか、被告に置くのかという問題を含むと思われるが、事柄の性質上、裁判所がどこまで正確に算定しうるかといえば、微妙な問題といわざるを得ない。いずれにしろ、判例の集積によってやがて解決してゆく問題のようにも思われる。なお、モンテ・コンフルコ号事件では、原告が、保証金の形式として現金又は支払保証小切手を求めたのに対して、裁判所は、カモコ号事件で銀行保証の形式を命じたが何の困難も生じなかったとして、この要求を退けている(93項及び主文(7))(93)

 

五 おわりに

このように、こうした二つの事例の判決の中で、ITLOSは、即時釈放制度に関連する海洋法条約第73条及び第292条の正確な意味内容に関してその解釈を示しており、同制度を語る際に見逃すことのできない先例を形成しつつある。

 

 

 

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