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その理由として、裁判所は、「漁船へのバンカリングの禁止を『関税』と分類することは、…ギニア当局が初めから国際法に違反して行動していたと論ずることになるのに対し、第73条の分類は、ギニアがサイガ号を拿捕した際に条約に基づく自国の権利の範囲内で行動していたとの推定を許す」(72項)からであると説明する(86)。このように裁判所は、被告が主張せず、原告が十分に立証できなかった主張を独自に採用している(87)。はたして、裁判所が職権で(proprio motu)こうしたことができるかどうかである。

メンサ所長は、その反対意見の中で、「そうすることで、裁判所は、自らが持たない、またその任務を履行するにあたって持つ必要のない権能と権限を不法にもつことになる(88)」とこれを批判した。山本裁判官らは、被告がとった拿捕・抑留措置についてその国内法上の法的根拠を決定するのは、ITLOSでも原告でもなく、被告ギニアの権限と責任に属することであることを指摘する。ギニアは繰り返し密輸を訴因とし、判決が援用する漁業法については本訴訟手続ではまったく引用していない。また、サイガ号の拿捕と抑留は、ギニアの関税法の執行を管轄する税関当局により行なわれたのであり、漁業法に基づく生物資源の管理に当たる国家機関はまったくこれに関係していないというのである(89)。ブラウン教授の指摘にあるように、裁判所は、漁業法ではなく関税法・密輸規則を適用した主権国家ギニアの声明を拒否しているが、その拒否にあたって、ギニアの分類が当該事件の事実と明白に一致していないことを示す必要があるにもかかわらず、それを怠っているといわざるを得ない(90)。ラゴーニ(R. Logoni)教授が指摘するように、抑留の理由が競合する場合、例えば漁業法の違反に加えて、関税法の違反が加わる場合、後者が即時釈放を回避するための単なる口実でなく、事案の性質上、関税法の違反の事実が漁業法のそれに比較してはるかに重大な場合、即時釈放の請求を却下することも考えられないわけではないことを考えれば、なおさらである(91)。いずれにしろ、ITLOSの今回の判決は、被告がとった措置についてみずから性質決定を行う権利を奪い、これを原告に与える結果になったともいえ、ITLOSが今後ともその判例においてこうした態度を維持するのかどうか注視して行きたい。

 

 

 

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